50 キスじゃない何か
突然の
「俺さ、昔から伯父さんに感情を高ぶらせるなって言われてたんだよね」
「興奮が暴走を引き起こすって言うものね。バスクとして正しい事だと思うわ」
「だろ?」と
「何よ」と苛立った視線が返って来るが、スルーして話を続けた。
「お前の方が強そうだし、ここでお前が興奮すればいいんじゃねぇのか?」
安易な考えだとは思わない。我ながら良く思い付いたと自分を
「はぁ? 良く分かんないんだけど。私に暴走させようっていうの?」
「
距離こそあるが、軽い風船を動かすだけの力で良いのだ。
美弦はもう一度風船を見上げると、不服そうな顔のまま
「やってみる価値はありそうね。でも、どうすればいいのよ」
「やっぱり、感情の高ぶりといえば怒りだよな? お前ちょっと怒ってみろよ」
「簡単に怒れるわけないじゃない!」
既に
じゃあ何だと考えて、修司は一つのアイディアに顔を上げた。
前に
これだ! と確信して彼女に振り向くが、冷静に考えれば
こんな場所で彼女にキスなんてできるわけないし、そんな度胸持ち合わせていない。逆に妄想で膨らんだ頭が興奮してきて、修司は慌てて頬を両手で叩いた。
けれど他にアイディアもなく、自分を
「一人で何ニヤけてるのよ、気持ち悪い。今ならアンタの方ができるんじゃないの?」
それは一理あるかもしれないと技を試みるが、意識が散って風船に集中できず、思うようにはいかなかった。やはり美弦に
もう、ぶっ叩かれてもいい。
キスは絶対に無理だが、「覚悟しろよ」と意気込んだ。
「はぁ?」
修司はそのまま間合いを詰めて、美弦の身体を抱き締める。笑ってしまうくらい、自分でも予想外の行動だ。
柔らかい感触と少し熱い体温が伝わって、修司は捨て身の気持ちで両腕に力を込めた。
美弦は一瞬抵抗を見せたものの、大きい目を更に見開いて身体を震わせる。
「ちょっと、何してんのよ……」
彼女の声まで震えていた。
修司自身、目的を見失ってしまいそうになるが、このアイデアは
予想以上の怪力で美弦は修司の身体を突き飛ばし、彼女の右手がバチーンと音を立てて修司の
「ばっかじゃないの、変態!」
ホールに響く怒号。そして同時に彼女の両手は再び天井へと伸びた。
貼り付いたままだった青い風船が左右に大きく振れる。そしてゆっくりと白い天井を離れたのだ。
「ああああっ!」
美弦の怒りが歓声に変わる。修司を振り返り「すごい」と興奮して、また頭上を
ようやく試練達成。しかし三十分なんてリミットはとうに過ぎていて、京子の力の効果が切れたのか、美弦の力が届いた結果なのかは良く分からない。
静かに落下してくる青色の風船を眺めて、修司は耳まで真っ赤な美弦とハイタッチした。
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