47 帰ってきた男
「そういえば、この間力を使ったって言ってたけど、山に行った時の事?」
こちらを伺う京子の質問に暗い空を渡るヘリの光を思い出して、
「バスクはよくやるんだよね。でも山には管理者が必ず居るし、ああいうのは良くないから。大体、あそこがアルガスの所有地だって知ってたの?」
「……はい」
何も知らずに連れて行かれたからと誤魔化すことはできなかった。
あの山がそうだと知って、帰る選択をしなかったからだ。
「もぅ。そんなにあの女を信用してたの?」
「……多分、そういう事なんだと思います」
「意地悪なこと聞くようだけど、私の仕事だと思って許して。あの日は関西の支部から戻るところだったの。まさかあんな派手にやってるとはね。私は気配感じ取るの苦手だけど、それでもすぐ分かったよ」
「えっと……」
じっと見つめる京子の視線から逃れて、修司は出し掛けた言葉を飲み込んだ。
アルガスに事情は筒抜けらしい。
あの時やってきたヘリの恐怖が一瞬強く下りてきて、修司は膝を抱え込んだ。
「あれは京子さんだったってことですか」
「そういう事」
ヘリの接近を敵の
敵か味方かを判断しろよ――そう自分に言い聞かせる。
「すみません」と絞り出す修司に京子が「うん」と返事して、
「あんな所で勝手に力を使うのは良くないよ。あれだけでも
「怖くてチビったんじゃない?」
「んなワケないだろ!」
ニヤリと笑う美弦に反抗するが、近い状態だったことは否定できなかった。
京子はそれ以上の追及はせず、今度は意外な人物の話題を口にする。
「全く、
「えっ……」
「アンタがここに来る事になって、色々調べさせて
美弦は「バラしてないし」と口を動かす。
「なら、平野さんの店の前で倒れたキーダーってのは、やっぱり京子さんだったんですか?」
「そんなこと聞いてたの?」
ずっと疑問に思っていた事を尋ねると、京子は「ちょっと恥ずかしいね」と肩をすくめ、ケラケラと笑い出した。
「あの頃は東北にキーダーが不在だったから、能力
「はい」
京子は美弦と同じことを言うと「そろそろ別の事しようか」と立ち上がって制服を整えた。
ポケットを探った京子は、真っ赤なゴム風船を取り出しておもむろに
何の
「まぁ、ゲームみたいなものだよ」
ふわりと空中に投げた風船は、ヘリウムガスを入れたかのようにぐんぐんと上昇し、やがて天井に貼り付いた。
アルガスでは二階分だが、民家なら四階ほどの高さだろうか。首の後ろが痛いくらいに天井を仰ぎ、修司は遠くの赤い丸に目を凝らした。
「あれを割るのが今日の課題。私が力で押さえておくから、力で割っても、落としてから割っても好きにしていいよ」
「えっ? そんなこと俺にはまだ……」
修司はずっと握っていた
「そんなに難しく考えなくていいよ。ちょっと動かせば落ちて来るって。美弦はどう?」
美弦は顔面に緊張を貼りつけて、風船を見上げたまま首を傾ける。
そんな時、背後でカチリとペンをノックする音がした。
それまでなかった気配が突然現れて、修司はドキリとする。
背中を振り向こうと
割れた風船が力を失って宙を舞い降りてくる。同時にカツンと叩き付けられたペンが、くるくると床を滑って後方へと走っていった。
余りにも一瞬の出来事で、修司にはきちんと状況を把握することが出来なかった。
ポタリと落ちた赤い風船から顔を起こすと、
「
戸惑うように息をのんだ京子が、修司の後ろを一点に見つめたまま緩い笑顔を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます