23 技術者
「
律と
彼女の右手が頭上に振り上げられると、声の方向に黒い影が動く。
彼が動かすライトの光でお互いを確認し、律が「戻ろっか」と立ち上がった。
「咲かなかったわね」
「咲く? 花、じゃないですよね? 花火とも……」
「キーダーはヘリからパラシュートで降りてくる時があるのよ。それが花みたいだって」
「そんなことするんですか?」
「体張るのはお互い様って事かしら。キーダーの行動パターンは大体決まってるから、今度、私が教えてあげる」
律が通常モードのふわりとした表情に戻った。こんな彼女になら
「はい」と返事して、修司は歩き出す二人の後ろを追い掛けた。
「さっきの気配に気付かれた──いや、それだとヘリの登場が早すぎますね。どこかで見張られていたのかも。あれで諦めたのは、降りるリスクを考えてってことでしょうか」
「そうね、修司くんの力を
彰人なりの解釈に、律が同意する。
「俺の力なんて、そんな……」
「
「けど、ここに降りることで向こうにもリスクがあるんですか?」
「
冷たい瞳ではにかむ彰人の表情に、
ざわりと
「駄目よ?」
「やりませんよ。今はそんな事をする時じゃないですからね」
冗談の顔に見えない。彼はキーダーと戦う事に恐怖はないのだろうか――そう考えた途端、修司の頭に一つの推測がよぎった。
彰人は、もしや――ホルスなのでは?
キーダーを敵視するというホルスの数少ない情報に彰人を当てはめると、否定する要素など何も考えられなくなってしまう。
彰人は強い。戦う事にもきっと慣れているだろう。
彼は自分の事を放浪者だと言っていたそうだ。実態の知れぬ人間こそ、そうなのではないだろうか。
「ねぇ。修司くんは、キーダーの武器を知ってる? 光も念動力もそうだけど、基本的にあの人たちは刀で戦うのよ」
「刀ですか?」
もやもやとした
ヘリから飛び降りることもだが、情報の
律が「こんな感じ?」と誰も居ない方向へ手を伸ばし、光を生み出す。
『刀』とは言うが、実際鉄の刃が出てくるわけではなく、白い光がそれらしく太刀の形を形成しているだけだ。切っ先までピンと伸びた刃を確認したのも
「私にはこれが限界だわ。戦えるレベルの刃を均一に保っていなきゃならないなんて、私には無理。その点キーダーは
つまり、その趙馬刀とやらがあれば簡単に刀を作り出せるという事らしい。
「便利なものがあるんですね。光って、球にして撃つだけじゃないんだ」
「アルガスの技術者はレベルが違うんだよ」
「確かにそれは認めるけど、道具に頼りっ放しってどうなのかしら。反則じゃない? 道具は使うし、ヘリで移動するし。私も彰人を見習って、もっと強くならなきゃ」
律が恨めしそうな視線を彰人に向けながら、小さく
「彰人さんて、やっぱり凄く強いんですね」
「そうなのよ、びっくりしたんだから。彰人は、そのまま――」
言い切るのを待たずに、パッと光が
彰人の手に白く長い太刀が握られている。律が見せてくれたものと似ているが、少々時間をおいてもその光が絶えることはなかった。
「まぁ、僕もこれで戦うのは苦手です」
そう言いつつ、彰人は腰の前で刃を構えて見せた。
「できないわよ、こんなの」
「律は不器用なだけですよ。ちゃんと訓練すれば、岩くらい平気で切れるようになります」
修司はただただ称賛するばかりだ。彼が例え『ホルス』の一員であってもバスクであることに変わりはないのに、自分とは次元が違いすぎて
「あれ、そういえば」と彰人が自分の左手首を確認する。そこに巻かれていたものは、一見
「律、九時過ぎてますよ」
「ええっ」と慌てた律の声と同時に、白い光の
修司には状況がさっぱり分からなかったが、山での訓練はそこでブツリと終了してしまった。
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