13 初恋の王子様
朝起きたら、涙が出ていた。
これで何度目だろう、また夢に彼が出てきた。
とうの昔に諦めた事なのに、夢の中の彼が何度も笑いかけて来て、忘れ掛けた想いが引き戻される。
いつも同じシチュエーションは、何かの暗示なのだろうか。
小学五年の時に行った林間学校──これは
オリエンテーションで迷子になって、泣き出してしまった自分を探しに来てくれたのが彼だ。別に友達だった訳でもなく、それまで好きだと思ったこともない。
ただ頭が良く運動神経も
『見つけた』
困り顔一つせず「帰ろう」と手を差し伸べてくれた彼。
きっかけなんて他愛ない。自分はその手に恋をした。
『
繋いだ手の温もりに思わず何かを口にしたが、その言葉を思い出せないまま毎回そこで目が覚める。
夢に見る記憶は、そんな切り取られたようなワンシーンだ。
迷子になって
自分が恋をする瞬間から目覚めるたびに、罪悪感を覚える。
「どうした? また王子の夢でも見たのか?」
桃也の手がベッドサイドのライトに伸びる。まだ薄暗い部屋に照らし出された彼は、
彼とまだ付き合っていない頃、そんな夢の話をしたことがあった。
「王子じゃないよ。……けど、ごめん」
「謝るなよ。気にするなって言っただろ?」
桃也はあくびを零しながらゆっくりと身体を起こし、京子の頭をそっと
「他の男の夢見たくらいで、俺が怒るわけねぇだろ」
「うん」と
薬指に見覚えの無い指輪がはめられている。小さな石の付いた、女の子らしい
「これって……」
「お前いつも俺の指見て
「――ごめん」
「いいよ。誕生日なんだから、もっと笑ってろ」
京子は引き寄せられた胸に乾きかけた涙を押し付け、「ありがとう」と彼を抱きしめた。
☆
公園での爆発騒ぎの翌日、アルガス三階の報告室から出てきた京子を
「お疲れ様です、京子さん」
「待っててくれたの?」
「今来た所ですよ。大分長かったですね」
「オジサンさんたち、余計な事まで
疲労
朝九時前にアルガスに着いた途端連行され、そこからずっと報告室に入っていた。時計は
上層部の男三人を相手に一人で受け答えする形式から、『法廷』や『取調室』といった異名を持つこの場所は、京子にとってこの上なく苦手な場所だ。
綾斗は報告室から出てきた彼等に
「足は平気なんですか? 朝病院に行ったってセナさんに聞きましたよ」
「そう。アルガス御用達の整形外科があって、連れてって貰ったの」
グルグル巻きにされた包帯の上に履いた靴下が、こんもりと膨れている。
「まだ痛いけど、どうにか歩けるよ。本当はタクシーで行くつもりだったのに、朝ご飯食べてたら突然セナさんが家に来て大変だったんだから」
通勤時間真っ只中の七時台に、自慢の真っ赤なスポーツカーをマンションの入口に横付けしたセナは、道行く人の大注目を浴びていた。
「桃也くんに久しぶりに会った、って喜んでました」
「そんなことまで言ってたの……」
「はあっ」と京子は溜息をつく。予測はしていたが、相変わらずのおしゃべり好きだ。
「知り合いだったんですね」
「そう。昔マサさんのアパートに桃也が住んでた時があって、たまにごはん作りに行ってたんだって」
「何だか成長を喜ぶ親みたいでしたよ。報告室では桃也さんのこと聞かれたんですか?」
「聞かれたよ、あの眉毛に! 誰と何でそこに居たんだ、とか。やんなっちゃう」
報告室の三人は、京子の中で『ヒゲ』『眉毛』『メガネ』とあだ名が付けられている。事ある
「それで、答えたんですか?」
「まさか。詳しく言う義理なんてないし。恋人とご飯食べて、海見てたって言っただけ」
「災難でしたね。けど、京子さんの怪我がその程度で俺ホッとしました。他に巻き込まれた人もいなかったし。京子さんがいなかったら、もっと大惨事になってたと思います」
フォローする綾斗の言葉に、京子はゆっくりと顔を起こす。
「違うよ、綾斗」
昨日飛んできた光の熱の感覚を、はっきりと覚えている。
「いなかったら、じゃない。多分、いたから起きたんだよ」
「……京子さんが狙われたってことですか?」
「うん」と
「綺麗な指輪ですね」
綾斗は立ち上がり、京子の前に手を差し出した。
彼の手首にもまた、銀環が光る。
「歩けますか?
京子は「ありがとう」とその手を
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