12 相手は誰……?
静かな正月の夜を襲った衝撃に、人々が駅を目指して走り出す。
京子はまだ熱の残る鉄
「待ってろ」
「もう誰も居ないみたいだ」
「何なのこれ。バスクの
出生時の検査を逃れた、
差し出された桃也の手を握り、京子は右足を庇いながら立ち上がった。
「
「歩けるか? 無理するなよ」
京子は桃也の腕を掴んで、辺りを見張る。
敵らしき気配は感じられない。さっきの衝撃も、最初はほんの僅かな熱を感じただけだ。
あまりにも短い出来事で、何が起きたのか自分でも良く分からなかった。
ただ、京子の身体を受け止めた鉄柵の
光が飛んでくる事に気付いて
「ここにいて」と桃也を残し、今度は京子が光の現れた方へと歩く。
増していく足の痛みを堪えて、腰の
静かになった公園に、今度は一人二人と野次馬たちが集まり出す。
なるべくなら人目のない所で戦いたかった。
「誰なの……?」
京子は
今回の敵がキーダーでないとは言い切れないが、やはりバスクだと考えるのが
「落ち着け。もう誰もいねぇだろ?」
光の現れた方を何度確かめても、敵の気配を感じ取る事はできなかった。
「そう、だね。逃げられちゃったかな」
相手を
遠くにパトカーのサイレンが鳴って、桃也が京子に向けた背中を低く落とした。
「乗れ。その足じゃ辛いだろ。身体だって痛いんじゃねぇのか?」
野次馬たちの目を気にして京子は「でも」と渋るが、
「悪化させたら、仕事に支障が出るんじゃねぇのか?」
半ば強引に背負われ、京子は桃也の背中に顔を
ゆっくりと歩きながら、桃也が溜息をつく。
「お前の仕事を理解してない訳じゃないけどさ、自分のことは大事にしろよ? 京子が強いんだってことはちゃんと分かってるから」
「それって、私が怖いってこと?」
つい綾斗に言われた言葉を思い出してしまう。
「そうじゃねぇよ。いいか、もし死ぬか生きるかの
「どうしたのいきなり。でも、心配してくれるんだ」
「当たり前だ。真面目に言ってるんだからな」
桃也はピシリと声を強める。京子は桃也の肩に乗せた手を、そっと彼の首へ伸ばした。
「ありがとう、桃也」
「お前は色々背負いすぎなんだよ」
素直に嬉しいと思って、京子は緩んだ
「キーダーの力は、使い方さえ誤らなければ大切な人を守れるものだもん。それを示していくのがキーダーの仕事だと思ってるよ」
未だに
「キーダーとして生きるか、この力を捨てるかは人それぞれだけど、自分にしかできないことがあるなら、私はそれを最後まで全力でやり遂げたいの」
「何回も聞いてる。それが京子の信念だもんな。凄いって思うよ」
「だって、できないことも多いもん。料理とか、片付けとか……だから、やれることはしたいの」
「納得。俺もいつか京子みたいに、俺にしかできないことをする男になりてぇよ」
軽快に笑って、桃也はそんな未来への夢を語った。
「うん、頑張って。その時は応援するから」
「サンキュ」
京子が彼の背中で心地良い揺れに身を任せていたのも
コージのヘリが近付いてくる。機体の数字は確認できていないが、胴体の下に五番機のトレードマークである紫色のライトが光っていた。
ヘリコプターは上空で止まり、寒空に弱めのサーチライトを落として胴体の腹からロープを垂らす。二つの影がするするとロープを伝って地面に下り、京子の元に駆け寄ってきた。
「ごめん、下ろして」
辺りに湧き上がる歓声に、慌てて京子は桃也の背を離れた。よろめく身体を支えられ、彼の腕を握り締める。
「京子さん! 無事ですか!」
バタバタと先に来た綾斗が、桃也に気付いて
「警察への通報がこっちにも来て、コージさんに飛ばしてもらったんです」
綾斗はアルガス本部の敷地に建てられた宿舎に住んでいた。慌てていたのか、いつもきっちり結ばれている制服のタイが外れている。
上空にいたコージのヘリは、既にアルガスの方向へと小さくなっていた。
「あんまり無事じゃないけど、平気だよ。他に被害はないと思う」
「そうですか。一体何があったんですか?」
「何……って。それが、突然光が現れてこうなったんだよ。相手も確認できなかった」
「バスクなんですか?」
「……多分」
視線を落とすように
「無事か、京子」
綾斗の後を追って現れたのはマサだ。いつものジャージ姿に、紺の
「私はどうにか。でも、相手を捕らえられなかった。ごめんなさい」
「無事ならいいさ、気にするな」
マサは京子の無事を確認し、
「……桃也か?」
「久しぶりだな、マサ」
「何でお前ら……って、まさか。年下の男と同棲してるのは聞いてたけど」
ぶっきらぼうに挨拶する桃也に、マサは驚きを通り越して困惑の色を見せた。
隠していたことが、こんな時に明るみになってしまった事を京子は後悔する。
『大晦日の白雪』から数年間マサは桃也と暮らしていたが、同居解消後の交流はなかったらしい。
息を呑むマサに、桃也は改まった表情で浅く頭を下げた。
「今度、部屋に行ってもいいか?」
マサは「おぅ」と短く答えて、綾斗を現場へと
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