11 狙われた京子
すっかり辺りが暗くなり、駅前のからくり時計が八時のメロディを流し始めた。
店を出て数百メートル離れた海までの道を歩く。
夕方待ち合わせした駅で会い、
少し飲んだだけのアルコールが回って、京子は弾むような足取りで彼の前を歩く。寒いはずの風も、あまり気にはならなかった。
「まだツリー光ってる! ご飯も美味しかったし。ありがとう、桃也」
海に面した公園の木々には、もう正月だと言うのに薄い青のライトが張り巡らされている。
あちこちで佇むカップルの間をすり抜けて、京子は一番奥の柵まで駆けた。
「おい待てよ。そんな靴で走ったら転ぶだろ」
桃也は京子を追い掛け、フラつくその腕を
「酔っぱらいが一人で行くな」
「はぁぃ」と答えて、京子は桃也の手をぎゅっと握り締めた。
いつもより少し高めの履き慣れないハイヒールに、桃也の顔が少しだけ近くなる。
アルコールのせいだろうか、目が合ってはにかんだ彼に、心臓がいつもの何倍も早く動いた。
「何緊張した顔してんだよ。寒くないか?」
「うん」とぎこちなく笑うと、桃也の胸に引き寄せられる。静かに重ねた唇に目を閉じて、京子はそのまま彼の胸に
抱きしめられる腕の強さを
「新しいネックレス? 初めて見たかも」
「
その名前を聞いて、桃也は「あぁ」と眉を上げた。二人は前に一度だけ顔を合わせたことがある。
「マサのこと好きなんだっけ?」
桃也がホッとした表情を見せる。
「そうそう。けど恋愛ってうまくいかないよね。朱羽はマサさんが好きだし、マサさんはセナさんが好きだし、セナさんは良く分からないし」
五年前、京子と同期でアルガスに入った朱羽は、マサへの恋愛のもつれから、今アルガスとは別の場所で仕事をしている。
「セナさんはマサのこと好きだと思うけどな」
「そうなの?」
「まぁ本心は分からねぇけどさ」
あの二人の恋は、どう見てもマサの一方通行に見えるけれど。
『大晦日の白雪』で両親を亡くしてから暫くの間、桃也はマサのアパートで二人暮らしをしていた。その頃の京子には特別興味の湧くような話題ではなかったけれど、後になって聞いた話では、セナが男所帯を見かねて何度か二人の部屋を訪れていたらしい。
けれどセナはマサの想いを知っていたはずだ。それなのにそこで進展がなかったのだから本人が言うように「特別な気持ちじゃなくて義務」以上の想いはないのだろうと京子は納得している。
「それよりさ、京子」
桃也が改まって京子を呼んだ。
「話があるんだ」
見上げた桃也の顔に、
「どうしたの?」と
けれど「俺……」と切り出した唇が次の音を発しようと動いたその時、桃也がハッと京子から公園の中央へと顔を
京子の肩に乗せていた手に力が
「桃也? え……?」
呟いた声と同時に、熱を感じた。桃也の視線を追って、京子は飛び込んだ衝撃に目を
「あぶねぇ!」
叫ぶ桃也の手を振り払い、京子は
「京子!」
「桃也は下がって!」
精一杯の声を張り上げ、京子は光に身体を構えた。息つく暇なく膨れ上がった熱の塊は、どんと正面からぶつかってくる。
京子が
「ちょっ!」
それでも衝撃は大きい。白い光ごと後ろへ弾かれた京子が後方の鉄柵に衝突し、地面へずり落ちた。
双方の光は溶け合うように
一呼吸の間を置いて、辺りが壮絶なパニック状態に
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