第15片

涙が枯れる程、みんなで泣いた後、

魔法使いのお墓を作りました。


お墓には“心優しい、愛しい人”と添えて。


それからというもの、

娘は魔法使いとの想い出が沢山詰まったこの家で

魔法使いがどれだけ素敵な人だったかを

毎日の様に子供に話しました。


その姿はまるで、

彼のことを自分と子供に刻みつける様でした。


そうやって娘は、魔法使いとの想い出を胸に

前を向いて懸命に生きようと自らを奮い立たせていきました。



それでも、魔法使いのことを想うと

やり場のない悲しみに襲われます。



実は子供を産んだあの日、

娘には悲しい考えをよぎらせていました。

自分を犠牲にした魔法使いは、昔のように

自分の命を軽く見て犠牲にしたのではないかと。


でも、当時の様子や伝言を聞き、

そうではなかったとわかりました。


生きることに希望を持ちながらも、

彼の意思で命を天秤にかけ、

考え抜いたことだったのだとわかりました。


その事を想うと

更に胸が張り裂けそうになるのです。


生きることに希望を見出しながらも

自分のことを諦めさせてしまったのです。


その悲しみは娘の心に影を落とし、

時折現れては悲しみの底に突き落としていったのでした。



でも、そんな時、

決まって子供は泣いて母を呼び、

娘を悲しみの底から呼び戻します。


そして、抱きしめられると

心を繋ぎ止めるかの様に手を握り、笑っては母親を救うのでした。


それはあまりにもタイミングがよく、

その度に近くで魔法使いが見守ってくれている様な気がして、あたりを見回すこともしばしばでした。


でも、やはり魔法使いの姿は一度も見かける方はありませんでした。



そんな日々を送っていた娘は、とある日の夕方、

眠る子供のそばで、転寐うたたねをしていました。


微睡みが覚めない中、

娘はふわっとした心地よい温もりに包まれます。


懐かしく、暖かく、どこまでも優しい温もりでした。


まるで魔法使いがそばにいる様で、いつまでも微睡んでこの温まりに包まれていたいと娘は思いました。


その時、左手に暖かい力を強く感じ、

目を覚ましました。


もう自分を包んでくれていた温もりは

どこにもありません。


幻だったのだろうかと思いつつ、

左手の甲を見ると薬指の付け根に花びらの様なアザができていました。


それは魔法使いからの最後の贈り物のようでした。

きっと見守っているという合図だったのでしょう。


娘は薬指のアザに口づけをし、涙を流します。


そして、深呼吸をし、我が子を撫で、

“ 前を向く練習をしていくから、今は許してね”と、

微笑み涙を流すのでした。




***



魔法使いが亡くなってからというものの、

村の人々が交代で、手伝いや遊びに来てくれました。


子供はみんなからの愛情を受け、

どんどん成長していきます。


やがて、魔法使いの家の近くに、

家を建て近くに住んでくれる人も出てきました。


ちょうど家を建て直さなくてはいけなかったからと優しい嘘を添えて。



そうやって年月が流れ、

魔法使い家の周りは小さい村になりました。


彼がいた場所はもう孤独はなく、

暖かな声に溢れています。



この中に、彼がいたらどんなによかったか。


娘は彼のいない風景に

思いを馳せながらも、前を向いて懸命に生きていくのでした。


濡羽ぬれば色の髪をした男の子の手を引いて。

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