第10片
魔法使いは、
目を覚ましました。
隣には娘が目を腫らしながらも
安らかな寝息を立てています。
泣きつかれた娘は魔法使いの服を握りしめたまま
気を失ってしまったのです。
互いの温もりを
どちらのものか分からなくなる程、
人に長く触れられていたのは初めてでした。
嬉しい反面、それはもう魔力が底を尽きているという事。
魔法使いは、それを知りながらも、
娘を治しきる事は貫き通すつもりでした。
そして、その意思を表すかの様に
安らかな娘の寝顔にそっと口づけを一つ落とし、
冷えないように強く抱きしめて
また眠りにつくのでした。
魔力を失うことで死に近づく魔法使いは
魔力を失うことによって
本当の温もりを得る事が出来た、そんな夜でした。
夜が巡り朝がやってきました。
その日から娘は治療をさせてくれなくなりました。
魔法使いは心配し、
治療を受けてくれる方法を考えました。
そして考えの末、
娘が寝ている間にそっと治療することに決めてしまったのです。
夜、娘が寝静まった頃、
そっとやってきては治療し、こっそり血を吐く行為を繰り返しました。
数日後、魔法使いの限界点がとうとう顔を覗かせました。
その日は吐血だけではなく、
鼻からも目からも血が噴き出しました。
魔力が尽きた魔法使いは
自身の生命力を返還して魔法を使っていたのです。
それでも彼は
対する娘は、夜毎行われる治療に気づき始めていました。
意識がない時にするなんて卑怯だと思いつつ、
どうして自分にここまでしてくれるのか娘は気になっていました。
先日、魔力を使いきり死にたかった、孤独だった、という話を聞いたものの、何故自分に固執しているのかはわかりませんでした。
その夜、娘は寝たふりをしてベッドに潜りました。
しばらくすると彼が現れたではありませんか。
やはり眠っている時に直していたんだなと少し怒りました。
そして目を開け、魔法使いを掴み怒りました。
魔法使いは驚き、慌てました。
娘は、怒りながら問いただします。
そして、どうして見も知らない自分のために
そこまでしてくれるのかも尋ねました。
魔法使いは最初に出会ったときのこと以外
彼女に感じたことを不器用ながら伝えました。
自分にとって娘は光のような存在なのだと笑いながら。
娘は、胸を打たれ涙を零しました。
先日の生い立ちの話と合わせて考えると、
どうしようもなく悲しく寂しい気持ちになってしまったのです。
いくら孤独とはいえ、何気ない所作すらも光に思えてしまう程の寂しさに胸を痛めました。
魔法使いはどうしてそんなに悲しんでくれているのかが、分りませんでした。
ただ、理由はわからないものの、
彼女の涙を止めたくて、優しく涙を拭いました。
娘の暖かい涙が、手に伝い温もりを魔法使いに届けます。
とてもとても愛おしい温もりをでした。
魔法使いは"あったかいね"、といいながら
娘の目元にキスを落とし、抱きしめ、涙を流しました。
娘は
こう、
"どうか彼の残りの人生が幸せでありますように。隣にいるのが私じゃなくても良いから、多くの人と関わって、生きて幸せになることを望む様になってほしい"と。
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