第5片

止血は時間停止を。

欠損部位には再構築術式を。


消えかかる命を必死に繋ぎ止めようと

魔法使いは無謀な魔法を次々と使い、

彼女を助けるために必死になりました。


急激な力の消費で倒れそうになりつつも、

彼は歯を食いしばり、決して止めませんでした。


脳裏には娘の笑顔が浮かびます。


たった一度、挨拶で見せてくれた笑顔。

でも、魔法使いにとっては

世界に色とともしてくれたかけがえのない

笑顔だったのです。




天がしらけ、

暁光ぎょうこうが2人を照らす頃、

最低限の治療が終わりました。


娘の胸はかすかに動き、

息をしているのが、見て取れました。


それを見て、魔法使いの心に安心がひろがりました。

その瞬間です。

魔法使いは意識が遠のき、倒れこんでしまいました。


何とかして娘を安全な所まで運びたいのに

意識が途切れそうになります。


まずい、と落ちた瞼の裏側で思考します。



その時、一羽の小鳥が

ふと、魔法使いの指に止まりました。


そして、綺麗な鳴き声を響かせたのです。


魔法使いは驚きのあまり、目を開き固まりました。


生き物が自分に触れているのに、狂わず、歌っている。

その事実が信じられませんでした。


そう、

魔法使いの魔力は娘の治療でかなり減っており、

他者への影響が下がっていたのです。


魔法使いの瞳には希望が宿り、

残りの力を振り絞ります。


そして鉛のように重たい身体引き釣り、

娘の元へ辿り着いた魔法使いは、

優しく柔らかな頬に触れました。


人にも問題なく触れられる。

その事実に胸を震わせながら娘をかか

自分の家に向かうのでした。

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