第5話 脱出

「ついに、出来た…!」

資料にうずもれた研究室に、研究者たちの喜びの声が響いた。研究者だけではない、技術者たちもいるし、設計士たちもいた。

「これで、みんなを…。」

そう呟いて、ゆっくりと眠ってしまった。


その1日後。

作家は、アイデアが湧かず気分転換でもしようとテレビをつけた。

レポーターの真剣な声が、やけに大きく部屋に響いた。

「次のニュースです。今朝、国際宇宙研究会が、地球に巨大隕石が衝突する可能性があるとの発表をしました。」

「国際、宇宙、研究…これって。」

研究者たちの顔が映る。そこに、目の下にクマができ、少し痩せたように見える彼女の夫の姿があった。

「!」

「なぜわかってから半年そのままにしておいたんですか!?」

「…どうにもならないかもしれなくて、混乱を招く可能性を考えました。この社会は、緊急事態にすぐには対応できません。混乱によって奪い合いや争いが起きてしまうことも考えられたんです。」

「それではなぜ今発表したんですか?」

「…皆さんを助けられるかもしれない方法に賭けることにしました。それが、やっと昨日完成したんです。」

「それは、どのような…?」

「すみません、まだお答えできません。」

作家の目は、横で黙っている物理学者ー、夫を見つめていた。

「?」

不思議そうに母親を見つめる娘。

「大丈夫、大丈夫よ…。」

母親は、娘をぎゅっと抱きしめた。

「きゃははは!」

楽しそうに笑う娘。母親の顔には、不安が溢れ出していた。


「ただいま…。」

久しぶりに帰ってきた父親を、母親と娘は迎えた。

「お帰りなさい。」

「ぱーぱ!」

「……。」

父親は、疲れ切った笑みを口に浮かべていた。


その夜。子供がすやすやと眠っている部屋の横で、二人が話していた。

「それで…助ける方法って?」

「ロケットが、できたんだ。話していたものだよ。やっと、完成したんだ。」

「……!」

「でも、乗れる人は、一人だけだ。いや、それだけでいい。それだけでないと、いけないんだ。」

「…つまり、どういうこと…?」

「…僕だけが、乗って行くんだ。だから、他の人には、教えられなかった。」

「ちょっと待って、それって…。」

「…ごめん。おやすみ。」

部屋に行く夫を、妻は呆然と見つめていた。

「…え、それって…、あなただけが逃げるって事?」

真っ暗な窓の外には、やけに長い、赤い流れ星が流れていた。

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