第4話 危機

ーその生活から15年ー。

少年は青年となり、世界でも有数の物理学者となっていた。

少女もまた、有名な作家となっていた。

そして、2人は結ばれ、穏やかで有意義な日々を過ごしていた。

「今は何をやっているの?」

赤ん坊を抱いた母親が問う。

「世界の学者たちと、より良いロケットの開発をしているんだ。」

鞄を整理する手を止めて父親が答える。くるりと向けた顔は、何だか恥ずかしいなぁ、と言いつつ、頬を緩めた。母親も、赤ん坊をあやしながら微笑む。

「…やっぱり、面白そうね。今度は、あなたをモデルにして書こうかな。うん、とってもいいものが書けそう!うーん、どうしよう。誰を主人公にしようかな…。私?あなた?それともこの子かな?ふふ、楽しみ…」

「えー、恥ずかしい。…まあ、これが完成して、成功したらね。」

「わかったわ。その時は、教えてね。」

「教えないわけないだろ!あはは。君に書いてもらえるなら、腕もなるというものだよ。」

談笑を交わす2人に、赤ん坊が手を伸ばす。

「あうー。」

「ふふふ。」

その無邪気な様子に、2人は笑みをこぼした。

「じゃ、行ってきます。」

父親は、赤ん坊ー、娘の頭を優しく撫でて、玄関を出た。

「行ってらっしゃい。」

「1ヶ月後には帰るよー。」

「はーい。待ってまーす。ほーら、夢。ぱぱいってらっしゃーい。」

「だあー!」

母親が娘の手を持って、一緒に手を振る。

それに微笑み返して、物理学者は研究所へと歩き出した。


物理学者が、電車で山を越え、研究所につき、扉を開けた途端、そこに居た数人の研究者たちが立ち上がって駆け寄ってきた。片付いていたはずの資料がいくつも散乱している。異常事態を示す音が鳴り続けている。焦りに取り込まれたように変わり果てた研究室の姿に、物理学者は愕然とした。

「大変です、風見さん!」

「な、何があったんだ?」

「こ、これ…。見てください!」

研究者の一人である天文学者が、パソコンの画面を指さした。そこに映しだされていたのは、信じがたい内容だった。

「……!」

物理学者は、目を見開いた。

「なんてことだ…。」


娘をおぶって洗濯物を干していた母親が、空を見上げる。見事なまでに青く、冷たい冬の空が広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る