第3話 小さな告白

窓の外の木の葉が色づいて、鮮やかな色を窓に映し出している。

「あー、…いい…。最高…。」

本の世界に浸り、幸せそうな顔をする少女。

それを、そっと見つめる少年。お気に入りの顔が、また増えたな、なんて思っていた。

「もうほんっとこれ最高!見てよ〜、この優しさ!一生読む!」

「語彙力無くさないでよ、文系。」

「文系がしゃべる言葉まで定義されねばならぬのか?否!理系だってそうだ!感動は人の言葉を失わせる!そんなものが読めるのだぞー!私たちは幸せだー!」

「結局何が言いたいのさあ…。」

「最高ってことだよ!」

二人にとって、図書室は素晴らしい場所になりつつあった。

たくさんの物語に情報。居心地の良い空間。静かで落ち着いた場所。そして、自分を見てくれる人がいる。ここは、いつまでも居たい場所なのだ。

これ以上の居場所はない、と二人とも思っていた。


その思いが深く感じられたのか、秋という季節がそうしたのか。それはわからない。

「相変わらず、クラスでは地味な存在だけど、君といられて幸せだなあ。」

少年の緩んだ口から、普段は言わないような甘い言葉がこぼれ落ちた。

「……?」

少女はぽかんと口を開けた。少年は慌てた。

「あ!いや、なんか、別に?そのー、えっと…」

「ふっふふー。どうしたのよ…急に。」

そういう少女の頬もまるで外の紅葉のように赤く染まっていた。おどけた顔では隠しきれないと悟ると、少女は、少年をまっすぐ見つめて言った。

「…わ、私も、そう思ってたよ。ここに、一緒にいられて、幸せ。」

「…そっか。」

二人は目を伏せて、文字を追い始めた。心なしかいつもよりページが早く進む。

木の葉が、風をからかうようにからからと揺れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る