第2話 本の心

雨が降っている。窓に雨粒がぱたぱたと当たって、流れていく。

図書室で、二人が並んで本を読んでいた。

時々笑みをこぼす少女。

本に吸い込まれそうな勢いでじっとページを見つめる少年。

あれから二人は、よく図書室で会うようになったのだった。

「今日のは借りていくの?」

「んー、どうしようかなー。」

少年は、二人で本を読むのを毎日楽しみにしていた。本を借りてしまえば、一緒にいる口実がなくなりそうで怖かった。

「そんなこと言って、他の人に借りられちゃったら読めないでしょう。そろそろ何か借りてみたらいいのに。」

「…こんなの、読む人そんなにいないと思うけど。」

「いるじゃん。風見くんとか。」

「いやあ、僕じゃない人で思い当たる?」

「…むう…。でも本も、借りてもらえたら嬉しいと思うよ?まあ、読んでもらってるだけで嬉しいかもだけど。」

本に心があると考える少女に、少年は少しずつ惹かれていった。その想像力と優しさに、取り込まれていくようだった。そして、今までクラスで見向きもされなかった地味な自分を見てくれていることが、たまらなく嬉しかった。

(ここにいられて嬉しいのは、僕もなんだよ。)

そう思っても、口にすることは照れくさいのだった。


そんな少年の横で、彼女はいつも本を語る。その表情を見るのが、少年の密かな楽しみだった。今日のうっとりしたような顔も、少年のお気に入りだった。

「今私が借りて読んでる子も、なかなか面白くってさあ。やっぱり書いてる人の思いって、本の中に入り込んでくるのかな。とーくーにー、作者の伝記やエッセイなんか読むと、もっともっとその人の作り出した物語が心の奥まで入り込んでくる気がするんだ。風見くんもそういうことある?」

「…確かに、興味はあるけれど…。物理はさ、もともと決まってたものを発見していく感じだから、人じゃなくてその定理に一番価値があると思ってる。」

「わかってないなあ。いや、そういう考えもいいけどさ。生み出されたものだけじゃなくて、生み出した人にも価値があるんじゃないかなー、なんてさ。」

「ふうん…。」

「ほらあ、この前授業でやった…だれだっけ、ヌートリアみたいな…いや、ちがうな、あ、にゅーとん!ニュートンとかの伝記とか読まない?」

「基本中の基本の人忘れないで…。あとヌートリアは動物!!人名じゃなーい!!」


考えの違う二人は、それでもそばで本を読んでいた。

雨の学校にチャイムが鳴り、二人は図書室を出ていった。

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