第6話 臆病者

「え、17時半!?」

なんか空が赤くなってきたなーと思って、時計を見てみたらもうこんな時間だった。

どうやら夢中になって探しすぎたらしい。自分が空腹な事にも今気付いた。

こんなに探してもいないとは…。咲さんが見つけてくれていることを祈るしかない。

そろそろ、咲さんと合流するために私の家の前まで戻ろう。

帰路に就いている最中、何やら焼きそばのすごくいい匂いがして、さらにお腹が空いてしまった。

きっと少し先に焼きそばの屋台があるのだろう。私は美味しそうだなー、食べたいなーだなんて思いながら、何気なく匂いがする方を向いた。

「…!」

焼きそばの屋台を見た時、私はハッと息を呑んだ。

決して、焼きそばがあまりにも美味しそうだったからとかではない。

そこにあずさがいた。少し離れていて、顔もあまり見えないけどはっきりと分かる。

2年前のハロウィンの日に、あずさに焼きそばを買おうと提案したら、「甘いものの方がいい」と言われて断られた事がある。

だから、とにかく甘いものが好きなあずさはあそこにはいないと思っていたのに…。

まあ、無性に食べたくなったりしたのだろう。私は深く考えず、その代わり深く呼吸をして自分を落ち着かせ、あずさのもとへと向かおうとした。

でも。

私は足を1歩踏み出したあたりで、立ち止まってしまった。

あずさのもとに、私やあずさと同い年くらいの子が2人、笑顔でやってきたのだ。

あずさの友達かな。私と違ってあずさは他にも友達がいるだろうから。

ただ、あの3人がすごく笑ってたから、その楽しそうな雰囲気に気圧されて立ち止まってしまった。

「あずさ、この焼きそば1口いる?」

「ありがと!じゃあ私もこのクレープ1口あげる!」

「あ、ずるい!私にもー!」

あずさ達の楽しそうな会話が聞こえてくる。

そのあずさの笑顔には、もう私のことなんて忘れているような、私のことで悩んでくれてるとは思えないくらいに、楽しさと幸せで満ち満ちているように私には見えた。

咲さんは、あずさはまだ私のことを想ってくれていると言っていたけど、それも本当なのかという疑惑に変わっていた。

「私がいなくても全然楽しそうだね…」

なんなら私がいた時よりも楽しそう。

あんな幸せそうな雰囲気をぶち壊してまで謝りに行ける人がいるだろうか。

少なくとも…私にはできない。

昼まであった決意は、もう消え去っていた。

こんなことでショックを受けている私のことを、1歩踏み出しただけですぐ諦めた私のことを、弱虫だとか言って誰かが嘲笑うかもしれない。でも、元々私は咲さんが来てくれなければこの1歩さえも踏み出せなかった臆病者なのだ。

私は早足で逃げるようにその場を離れ、そのまま帰路に就いた。

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