第5話 西へ東へ
「わっ…もうこんな時間…」
特製クッキーの作り方をマスターした頃には、もう12時を過ぎていた。
「じゃ、そろそろ行きましょうか」
咲さんが、玄関の方を指さしてそう促した。
断る理由なんてない。私は二つ返事で頷いた。
外へ出ると、いつもと違う空気が私を迎えてくれる。
辺りを見渡せば、仮装している数多の人々が子供から大人までいる。
近くにある屋台のワッフルの甘い香りがほのかに私の鼻をくすぐり、思わず鼻で深呼吸をしてしまう。
少し遅れて、咲さんも外へと出てきた。
「あら、私が来た時より賑やかになってるわね」
「まあ、朝より昼の方が賑やかになるのは当然ですよね」
さて、この街の中からあずさを探すのだけど。
「…2人がかりでも探すのキツくないですか」
「………………キツいわね」
辺りをだいぶ見渡したあと、これは骨が折れると察したであろう咲さんがそこにいた。
「占いで、あずさの場所を探すこととかって出来ませんか?」
「占いというのは万能ではないのよ。人探しとかには占いは使えないわ」
「ちっ」
「え、今舌打ちした?」
「してないです」
恩人とも言える人に、反射的にとはいえ舌打ちしてしまったのは少し反省。
とりあえずまずは、あずさの家に行ってみようか。もしかするとまだ家にいるかもしれない。
私はそのことを咲さんに伝え、2人であずさの家へと向かった。
そして、15分ほど歩いたあと。
「ここですね」
私は1つの一軒家の前で立ち止まった。
表札には「百瀬」と書いてある。うん、ここで間違いない。何度も来たことあるし。
「ここの家は良いわね~。インターホンがついてない」
そう言って表札の下あたりをぺちぺちと叩く咲さん。そんな事で絶賛されるこの家も不本意だろうに。
「単にインターホンが壊れて、撤去して面倒だからそのままってだけだと思いますよ」
「そうかしら?インターホンが鬱陶しいから撤去したんだと私は思うわ」
「インターホンを鬱陶しいと思ってるのはこの街で咲さんくらいだと思います」
いや、インターホンでどうこうと言っている場合ではない。早くあずさを呼ばないと。いるかどうか分からないけど。
私は玄関扉の前に立ち、深呼吸をした。
私は意を決して、右手で軽く握りこぶしを作り、その右手で玄関扉を叩いた。
コン、コンと、扉の硬い音が鳴る。
「…………………………」
あ、留守だわこれ。
やっぱり、ハロウィンだから遊びに行ってるよなぁ…。
「あら、あずさ居なかったの?」
ひょこっと、家の塀から顔を出す咲さん。
「みたいですね…。こうなったら、街中の屋台を片っ端からまわって探してみます」
屋台だけでもかなりの数だけど、街中を宛もなく探しまくるよりかは効率的だと思う。
「そういうことなら、私は東側を探してくるわね。優ちゃんは西側。18時になったら、優ちゃんの家の前に集合しましょう。それまでに私があずさを見つけたら、その時連れて来るわ」
「分かりました」
こうして私達は、二手に分かれた。
とりあえず、手当り次第に屋台を見てまわる。
ドーナツ屋さん。ワッフル屋さん。クレープ屋さん。エトセトラ…。
あずさは甘いものが大好物だから、スイーツの屋台を中心に探してみる。
まあ、何万と人がいるわけでもないから、そのうち見つかるだろう。
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