第3話 勇気をくれた来訪者
「入れてくれてありがとう。実は私、占い師をしててね」
「はぁ」
私と向かい合わせに座った彼女は、占い師だと自称した。
ていうか、それよりも。
「急に馴れ馴れしい話し方何なんですか」
「いや私は誰に対してもこの話し方よ?出会ったその日に友達になるのがモットーだから!」
「さっき思い切り敬語だったじゃないですか」
「出会っていきなり友達みたいな話し方だと、変な人だなって警戒されちゃうでしょう?」
「インターホン鳴らさない時点で変な人だと思いました」
「私インターホン嫌いなの。インターホンって鳴ったらうるさいじゃない?でも、ノックは別にうるさくない」
やっぱり変な人だ…。
「ならなんで、家に入った途端馴れ馴れしくなったんですか」
家に入ったらもう警戒されないとでも思ったのだろうか。言っときますけど、まだめちゃくちゃ警戒してますからね。
「家に入ればこっちのもんだと思ってね」
「帰っていただけませんか」
「ごめんなさい」
なんか舐められてる感じがしてイラッときた。
そんなやりとりをした後、彼女はこの家に来た理由を話し始めた。
というか、私がさっさと本題に入ってくださいと言って、強制的に話させた。
「私はね、あずさの…えっと、知り合いなの」
「えっ。そうなんですか」
本題に入ったかと思えば、いきなり予想だにしないことを言われて驚きを隠せなかった。
知り合いというと、隣人とかそういう類の人なのだろうか。
なんにしろ、あずさの知り合いが私になんの用なのだろう。なんとなく予想はつくけど。
「単刀直入に聞くわ。あなた、あずさと喧嘩してるでしょ?あぁ、喧嘩というよりは、とある事が原因で自然に疎遠になったって感じかしら」
やっぱりそのことだった。でも、彼女は私の予想以上に、私とあずさのことについて詳しく知っていた。せいぜい、「あずさと何かあったの?」くらいのことを言ってくると思っていた。
まるで、あずさから直接聞いたみたい。
「なんで、そのことを知ってるんですか?あずさから聞いたんですか?」
「ん?あぁ、占ったの。さっきも言ったけど私、占い師だからさ」
「マジですか」
「マジマジ」
う、占いってすごい…。ていうか、占いでそんな具体的に当てられるって、この人相当凄い占い師なのでは…?何かを極めた人って、変な人が多いって聞くし。
「去年までは、あずさはあなたのことをよく私に話してくれてたわ。だけど、急にあなたの話題がでなくなったの。で、おかしいな~って思って、本人に聞くのもなんか気が引けたし、占ってみたら、こういう結果がでたって訳ね」
「なるほど…」
占いって、私が思ってるより凄いものなのかもしれない。今度、手相でも見てもらおうかな。
いや、そんなことよりも。
「そのことをなんでわざわざ言いに来たんですか?」
「あら、まだ分かんない?あなたとあずさを仲直りさせるために私は来たの。私はあずさには幸せになってもらいたいのよ。いつまでもこんな関係でいられちゃ困るわ」
人差し指を立てて、彼女は笑顔でそう言った。
仲直り…。それは、私がここ約1年間ずっとしたいと願ってきたものだけど。
「…私には、今更仲直りするような勇気なんてありません。第一、あずさは私のことなんてもうどうでもいいと思ってるかもしれないし…」
肝心な所で臆病な私は、まだ私のことを想ってくれているのかも分からない人と仲直りなんて怖くてできない。したくても、どうしても勇気がでない。
「あぁ、そのことなんだけど」
彼女は何かを思い出したかのような顔をして、若干落ち込んでいる私をなだめるかのように言った。
「あなたがあずさについて今どう思ってるのか、そしてあずさがあなたについて今どう思ってるのかもついでに占っておいたのよ」
「マジですか」
「マジマジ」
既視感のあるやりとりをしたあと、私は少し期待を込めて彼女に質問をする。
「それで、あずさは私のことをどう思ってるんですか?」
すると彼女は、母のような優しさのある笑みを浮かべながら答えてくれた。
「お互いがお互いのことを想ってなかったら、私はここには来てないわ」
私の期待に応えるのに十分過ぎるほどの答えが返ってきた。
本来なら「所詮占いの結果だし」と半信半疑になるだろうけど、彼女はすでに占いで私のことを当てているのだから、信じられる。
それに、何故かこの人の言葉なら、根拠や占いなんてなくても信じられる気がした。
「だから、もしあなたがあずさに謝ったら、絶対に仲直りできるわよ」
さっさと仲直りしなさいな、という旨を込めたかのように、笑顔のまま彼女はそう言ってくれた。
「私…今日あずさと話をしてきます!」
気分が高まり、私は椅子から立ち上がってそう言った。
直後に、ちょっとした問題があることに気付いた。
「あ、でも…今日はハロウィンだし、あずさも街に出てるだろうから…探すのが大変かも…」
やっぱり明日にしようか。そう思っていた時。
「なら、私もあずさを探すの手伝うわ」
なんの躊躇もなく、手伝ってあげると彼女は言ってくれた。
「え…いいんですか?」
「私は2人に仲直りしてもらわないと困るの。だから、最後まで手伝わせてよ」
なんて優しい人なんだ、と思った。変な人とか言ってすみません。
そうだ、1つ聞き忘れてたことがあった。
「ありがとうございます!私、美空優といいます!あなたのお名前は?」
すると彼女は、まだ名乗ってないことに気付いたのか、ハッとした顔になり、その後また笑顔を浮かべて、やはり綺麗な声で答えてくれた。
「咲よ。よろしくね」
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