手探りで覚える

 そうして一通り対戦ゲームを2人でプレイししばらくの休憩を挟んだ後、メープルがどうしても僕にやらせたいゲームがあるとの事で一人用のゲームをすることになる。

 楽しそうに彼女がゲームを起動し、表示されたタイトルは『魔法勇者メル4』。前に僕が知らないという事を伝えたら、驚愕のあまり人生まで疑問に持たれてしまったゲームのタイトルだ。

 ナンバリングが4まで続いているということは、確かに人気のあるゲームの証拠なのだろうが、何故に4からやらせるのだろうか。


「無印はかなり昔の作品じゃし、4からやってもそもそも主人公が違うから、ストーリー的には問題ないのじゃ。ワシじゃって2からしかやったことがないからのぅ」

「主人公が違うのに4なの?」

「世界観は統一されとるけど作品毎に主人公は全部違うのじゃ。ただ、全員名前の愛称はメルじゃけどのぅ」

「そりゃまた、奇妙な冒険をしそうなゲームだね」


 まぁ、ナンバリングが続いていても主人公どころか世界観も違うゲームもあるだろうし、細かい事は気にしてはいけないのだろう。ゲームにそんな詳しくはないが。

 彼女がどうして僕にこのゲームをやらせたいかは、渡してきたパッケージを見ればなんとなく理解できる。

 自慢げに見せてきたそこには、メープルのそっくりさんが描かれていたのだ。どちらかといえば、メープルがそっくりさんなのだろうが。


「どうじゃ!似ておるじゃろー!」

「そうだね。カラーリングはハロウィンというよりもう少しカラフルだけど」

「うむむ。そこは少し残念な部分なのじゃが、ワシの色も捨てたもんじゃないじゃろ。まぁともかく、さっそく遊んでみるといいのじゃ」


 コントローラーを押し付けられ、早く進めろと急かされる。

 RPGと呼ばれるジャンルのこのゲームは、主人公であるメルルを操作することで、プレイヤー自身がその世界の住人のような没入感を楽しむことが出来ることを売りにしている。

 魔法が当たり前に存在する世界ながら、魔法が一切使えない落ちこぼれの少女メルルは、ある日出会った精霊に不思議な力を授けられ魔法が使えるようになり、それを使って世界の悪を滅ぼしていくというストーリーらしい。

 見た目がメープルに近い事や、魔法や精霊と、現状に近しい物を感じてしまうので、あまりファンタジー作品には思えない物がある。


「玩具を武器にしてたり、人形を操ったりと、完全に君と一緒だね」

「うむ、当然なのじゃ。妖精が魔法少女にしてくれるといったとき、魔法勇者メルのようにして欲しいといったからのぅ」

「よく妖精が受けてくれたね」

「結構ノリノリじゃったぞ?今はもういないが、ワシがゲームをやってるのに興味があったようじゃしのぅ」

「まぁ、そういうのを楽しんでやる連中ではあるか。でも、メルルとは口調が違うよね?真似してたわけじゃないんだ」

「ジジババに囲まれて育てばこういう喋り方にもなるわい。それに、メルルのようになりたかっただけで、メルルになりたかったわけじゃないから、これでいいんじゃ」


 ゲームを片手に、メープルとああでもないこうでもないと騒ぎながら、未来の勇者であるメルルの行動を進めていく。

 アクション要素もあるゲームだった為、自分の思うようにキャラクターを動かすことが出来ず中々苦労したが、何度目かの挑戦の末とうとう最初のボスを倒すことに成功する。


「意外と難しいんだね。子供向けのゲームだと思ってたからびっくりしたよ」

「おヌシじゃってまだまだ子供じゃろうに・・・。まぁ、難易度が高めなのは否定しないがのぅ。そういった難しさも、このゲームの魅力なんじゃ。それより、ボスを倒してスキルが解放されたから、これから魔法の幅が一気に広がるぞ」

「スキル?」

「うむ。マジフォンでポイントで買えるのと同じような感じじゃ。こっちはスキルポイントで習得する感じじゃがのぅ」

「???」

「知らんのか?嘘じゃろ?」


 マジフォンにそんな機能あっただろうか。いや、そもそもロクに弄繰り回してないので、どんな機能があるかなんてまったく分かってないのだが。説明書があればある程度は読もうとは思うが、下手に弄って壊してしまう方が恐ろしい。

 何を言っているのか分からないという僕の表情から、スキルについての知識がないと理解したのだろう。

 驚愕を顔に張り付けたメープルは、携帯を取り出して操作し、目的のページを表示したのか僕に見せつけてくる。そこに映るのは、真っ暗な画面に反射した髪の長い美少女だ。


「いや、他人のマジフォンは見れないよ」

「そうじゃったわ・・・。魔石を集めればポイントに交換できるじゃろ?そのポイントを使って、魔法の本や便利なスキルと交換できるそうじゃ。ワシはまだ『ワンダラー』を倒したことはないから、ポイントも持っとらんし詳しくは知らんのじゃがのぅ」

「へー」

「反応が薄いのぅ・・・。そもそも、ワシにオレンジジュースを出してくれたということは、ポイントやストアの存在自体は知っておるってことじゃろうに」

「いや、それは知ってるけどさ。項目を全部確認したわけじゃないから」

「もったいないのぅ。ワシなんて気になって、徹夜で色々と弄っていたというのに」


 そうはいっても僕の場合、疑問があれば基本的にはもきゅ大先生にティーチングをしてもらっているしなぁ。魔法の本の存在は知っているが、それだってもきゅがワープのことを言い出さなかったら知る由もなかった。

 そもそもの話、この折り畳み式の携帯というのが悪い。普段使っているタッチパネル式の携帯と操作感が違い過ぎるので、あまり深く探ろうとは思えなくなってしまう。

 ひとまず手に持つコントローラーを机に置き、携帯を取り出してアプリを開く。ゲームの中の魔女っ娘が、自分を動かしてくれるのをいまかいまかと待っているが、しばらくはそのまま待機していてくれ。それか、後は自分の手で未来を切り開いてくれ。

 ストアのページを開いたので、どうせならと和菓子の詰め合わせを注文しながら、スキルについて詳しいことをメープルに尋ねる。


「それで、スキルって何なの?」

「もぐもぐ。ふぇーむふぉふぉはひほうはひほふは」

「いや、口の中を空っぽにしてからでいいよ。ゆっくり食べな」


 串団子を一気に頬張りながら喋り出すメープルが喉に詰まらせないか心配しながら、取り合えずちゃんと飲み込むのを待ちながら餡子のまんじゅうを食べる。

 しばらく待つと口が自由になったのか、お茶を飲んで一息すると、先ほどの僕の疑問に答えてくれる。


「ゲームで例えるなら、魔法はターンを使用するアクティブスキルで、スキルはターンを使用しないパッシブスキルやアビリティみたいなものじゃのぅ」

「ごめん。言っている意味がまったくわかんない」

「まぁ、そうじゃろうなぁ。例えば、魔法の適正を伸ばしたり、新しい適正を取得したり、筋力を強くしたりと、ポイントを消費して色々と構築できるのがスキルじゃ。簡単に言えば、魔法少女自身の恒常的な強化みたいなもんじゃな」

「あんまりパッとしないや」

「ゲームをやってれば簡単なシステムなんじゃがのぅ。というか、よくまぁいままでスキルの存在を知らずに『ワンダラー』と戦っていたもんじゃ。それじゃ適正外の魔法はロクに使えないんじゃろ?縛りプレイでもしとるんか?」


 もきゅからスキルの説明を受けたことはないが、そもそも僕には関係ないから説明を省いたのだろう。適正のあるなしなんて考えたことがないし、そもそも身体能力は限度が見えないし。

 ワープみたいな超便利なものを使用する時だけ、魔法の本のように説明をしてくれそうだ。


「個人個人で伸ばせるスキルは違うみたいじゃが、簡単な魔法ならどれも使えるようになるみたいじゃぞ。魔法少女が一人で『ワンダラー』と戦う場合、最低限身を守れる適正を手に入れてからじゃとガーネットがゆっておったのじゃ。おヌシは元からそういった適正じゃったのか?」

「んー、内緒。まぁ、僕は強いからね。そういうの関係ないよ」

「ワシのナイフもまったく効いておらんかったし、飛び切り身体が硬いのは理解しとるがのぅ。やっぱりおヌシは魔王なんじゃないか?」


 減らず口を叩くメープルのほっぺをむにむにと軽くひっぱるが、当の本人はくすぐったそうにしながらも、どこか嬉しそうにしている。構ってちゃんか貴様。

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