魔女っ娘講師
「もう少し色々確認しておいた方が良いとおもうがのぅ。システム周りの確認は必須事項じゃろ。魔法に個数制限があったり、攻撃力や防御力にセットするタイプじゃったらどうしとったんじゃ?」
「攻撃力や防御力って・・・そんなタイプないでしょ。そもそも、僕が魔法少女になった時は妖精がまだいたし、色々質問に答えて貰ってたし」
「そういえば、古参の魔法少女達は妖精としばらく過ごしてたみたいじゃのぅ。まぁ、色々教えてもらった結果、ワシにこうしてスキルの事も聞いとるわけじゃがのぅ?」
メープルが『ふふん』と鼻を鳴らしてにやつきながら片目で僕を見てくるので、お返しに鼻を軽くつまむ。口では嫌がっているものの、明らかに嬉しそうになすがままにされているので、お返しされるのが分かってやっているとしか思えない。
それにしても、妖精が居た時からいる魔法少女は古参扱いか。あんまり時間が経っている気はしないが、よくよく考えれば、短期間で何世代もすっ飛ばしたような変革が起きているので、そういった認識をされてもおかしくないのかもしれない。
それから、スキルについての説明をメープルにして貰いながら、ついでとばかりに彼女が様々なアプリの機能を教えてくれる。
もきゅ曰く、アプリは妖精みんなが好き勝手に機能を増やした結果、もきゅですらまったく全容を把握してないらしいので、スキル云々に関わらず色々と説明してくれるのはありがたい。
まぁ、僕の方が明らかに先輩なのに、魔法少女なりたての子に教えてもらうのはどうなのかと思ってしまうが、こういうのは餅は餅屋という奴だ。ゲームに精通しているだろう彼女の方が、こういったシステムに慣れているということなので気にしてはいけない。
「他にはそうじゃな、ポイントを使って魔法少女服のカラーリング変更とかもできるぞ。メインカラーからあまり外れた色は選べないんじゃが、2Pカラーという奴じゃな」
「なんだか、増々ゲームみたいだね」
「妖精が作ったと聞いとるが、確実にゲームを参考にしとるじゃろ。おかげで分かりやすくてよいわ」
「おかげで僕には分かりにくいけどね」
メープルが口で説明する通りに操作をしていくが、カラーリング変更のサンプルを見るも見事に黒系統しかなく、何の意味があるのかと疑問に思ってしまう。
まぁ、もう今の姿は気に入ってるからいいんだけど。
「メープルは色の変更したりするの?」
「せんぞ。というより、服のデザインやカラーリングは、魔法少女になった時点でその人物が気に入るようなものになっとるらしい。なので、これらは基本的にお遊び要素じゃな。ワシの姿も似合っとるじゃろ?」
メープルは、ハロウィンの魔女衣装のような魔法少女服を広げて、その場でターンをする。
目を細めて悪戯好きそうな表情を浮かべながら、最後に仁王立ちで自慢げに胸を張る彼女には、確かに似合ってると言えるだろう。
「なるほど」
最近ではフリルやリボンがないと落ち着かなくなってしまった僕からすれば、説得力に溢れすぎている説明だ。闇夜に溶け込む黒色も、影のヒーローだと思えば映える要素でしかないし、何より他のヒーロー達のカラーと被ってないのがよい。魔法少女達は暗い色よりも、彩度が高く、明るい色の服装が多い。
購入する私服ですらリボンもフリルがなければ満足できなくなってしまっているので、その分、色に関しては黒ではなく、もっと明るい系統のカラーを選ぶようにはしている。
「ワシは魔法の本とかも気になるのじゃが、どれもこれもバカみたいに高いからのぅ。委員会では研究資料だろうと目を付けとる本が欲しいそうなのじゃが、『ワンダラー』を何十匹倒してやっと1冊に届くかくらいだし、魔石を研究に回したいようで中々手が回ってないそうじゃ」
「ポイントで交換しても、読めない使えないなんてなったらもったいないしね」
読めないなんてことはない事は知っているが、それを活用できるかどうかなんて分からない。
図書館にアプリから買えるだけの本を詰め込んだが、いまだに比較的読みやすいであろう1冊しか読み終えることができてないし、ほとんどの本の内容は、本として編集されたものというよりは研究資料をとにかく一つに纏めたもののようでしかなかったので、正直まったく理解が追いつかなかった。それが図書館を埋め尽くす程の量もあるのだから、1冊読んだ程度で理解するのは不可能に近い。
頭の良い人が読めばまた違った感想を抱くのかもしれないが、あの量の中から1冊で有用なものを選ぶのは、分の悪い掛けだと思う。
魔法の本に関しては、非常に便利な代物だとは思うが、あれも実用性というよりは魔法の参考資料としての産物らしい。
最近では本を使わずにワープも使えるようになったので、そういった意味では優秀な訓練装置としての役割を持っているのは理解しているが、何も知らずに使用したら確実に事故の元になるだろう。正直、好んで使いたいものではない。
「色々勉強になったよ。ありがとう」
「これくらいお安い御用じゃ!お代はオレンジジュースでよいぞ!」
「はいはい」
それからは、話が長引きすぎて画面の中で待機モーションを数十回も繰り返し続けていたメルルをようやくと操作し始め、あの魔法が使ってみたい、この技はかっこいいなどと2人でわいやわいや言いながら、切りのいいところまで進めた後、RPGは終わりにする。
夕食を机の上に沢山広げたお菓子で済ませた後、次は何をするかと言われたので、せっかくなのでFPSをしたいと言ってみた。
最初は渋っていたメープルだが、対戦をするのではなく一緒に協力プレイして進めるゲームがあったようで、そちらならという事で遊んでいる。どうやら、襲い掛かってくるゾンビ共を銃やバットなどでなぎ倒しながら進むゲームらしい。
イメージしていたガンシューティングとは少し違い、銃で狙いを付けるのではなくコントローラーで照準を合わせなければいけなかったので中々操作が大変だ。
それに、どれだけ反応速度が早かろうと、戦いは数であるという事を十分に教えてくれるゲームだった。
ゾンビ共が一斉に群がってきて押し潰された時は、2人共パニックでまともに操作できなくなっていたので、ホラー耐性の低さがどっこいどっこいだという事も分かった。
「のぅ?今日は泊まっていくじゃろ?」
「いや、普通に帰るつもりだけど」
迫りくるゾンビを蹴散らしているさ中、メープルが突然に意味不明な事を言い出す。
期待するような目でこちらをみてくるが、勿論、泊まる予定など一切なかったし、そのような想定は欠片もなかった。
「何故じゃ!?今日は暇なんじゃろ!?というか、昼でも夜でも『ワンダラー』討伐に動けるんじゃからいつも暇なんじゃろ!?」
「それは失礼じゃないかね?僕だって忙しい時はあるよ」
確かに色んな時間に『ワンダラー』の討伐に動いているとはいえ、アルバイトだってあるのだからいつも暇という訳ではない。
まぁ、出勤時間をどんどん減らしていっているので、暇な時間が多いのは事実ではあるが。
「泊まって泊まって泊まって!!」
「いきなり駄々っ子にならないでよ。何も準備してないし、着替えだってないし」
「どうせ変身解除しないなら、着替えなんていらんじゃろ!準備なんて必要ないじゃろ!お泊り会しよーよー!」
コントローラーを捨てて操作を放棄するんじゃない。ゾンビが迫ってきてるぞ。
メープルに横から飛びつかれて肩を揺さぶられる中、なんとか一匹ずつ処理をしていくが、隣から攻撃をしてくる魔女っ娘ゾンビが強すぎて敗北を喫す。
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