そういう時期もあるよね
「それじゃ、僕は怪物退治に行ってくるね。それと、サファイア。勝負はいつでも受け付けるから、楽しみにしてるね」
「私は、貴女と戦いたい訳ではありません。魔法少女の力は、『ワンダラー』と戦う為に使う物です」
「僕はそうは思わないよ」
化け物退治がヒーローの本分ではあるが、男と産まれたからには、誰もが最強を夢見たくなるものだろう。
命のやり取りをするわけでもないし、僕の好奇心を満たすためにも力の競い合いをしたい。
「あ、あの!せっかくだから、一緒に倒しにいこ?一人で戦う必要なんて、ないよ?」
「お断りするよ。僕は一人のほうが好きなんだ」
クォーツが共同戦線を取ろうと提案をしてくるのだが、どういった心変わりだろうか。
一人で立ち向かわないと意味がないと豪語していた子が、こうして協力をしようと積極的に持ち掛けてくるのは、成長したと感心すべきなのだろうか。
とはいえ、本来であればそういった協力体制を取るのは非常に大事だとおもうが、僕にとっては不要だ。
そもそも共同戦線なんて張っていたら、いざ危険になったときに一人で逃げにくくなってしまう。
『ワンダラー』の討伐に危険な思いをしたことはないが、いつまでもそうとは限らない。守るべき相手は、出来る限り少なくしたいというのが、僕のやり方だ。
「で、でも。一緒に戦った方が、安全だし、もっと早く終わらせれるよ!」
「まぁ、僕についてこれるならそうすればいいよ。でも、今日くらいはおうちでゆっくりテレビを見ていても、バチは当たらないと思うけどね」
せっかくテレビで自分たちの活躍が流れているのだから、残りは僕に任せてそれを楽しんでいてもいいと思うのだが。まぁ、それをしないのが、彼女達の矜持なのかもしれない。
しかしながら、彼女達と並走しながら『ワンダラー』討伐に向かうつもりはない。
袖口から青いカードをスライドさせて手のひらに持ち、顔の前に持っていきアクセルを発動させる。
力強く地を蹴り跳び出せば、さっきまでいた公園はみるみるうちに遠ざかっていき、サファイアやクォーツの呼ぶ声も風によってかき消され聞こえなくなる。
あれだけ大見得を切っておいて、簡単についていけましたなんて言われたら、恥ずかしくてモグラになってしまうので、普段よりも一段と速度を上げて屋上を走り抜ける。いつものように周りの風景を楽しむことなく、一直線で目的地へと向かうので、気分はまさにレーサーだ。
「あんなこと言ってよかったっきゅ?これから先、狙われ続けたらめんどうっきゅよ?」
「まぁ、それは大丈夫でしょ。僕一人に人員を割く余裕なんてないだろうし、サファイアは外道みたいな戦法を取らないだろうから、面倒な事にはならないと思うよ」
「もきゅがあんなこと言われたら、家を特定して火を放った上で、親族を人質に取るっきゅ」
「やってることが魔法少女関係ないじゃんか。力づくっていっても限度があるよ」
最早そこまでやったらテロリストだろう。
妖精にまともな倫理観なんて求めても無意味だろうが、僕なんかより真っ先に捕まるべきだ。
「最近の僕って、なんていうか、影のヒーローみたいな感じじゃん?」
「最近もなにも、最初からそんな感じだった気がするっきゅ」
「そんなことないって!新聞にだって載ったし、テレビにだって少しは出てたじゃん!まぁ、それは置いておいて。表のヒーローと裏のヒーローが、それぞれの思想を胸に戦うのって、やっぱり必要というか、ロマンがあると思うんだよね」
思想というのは人それぞれあるものだし、それはヒーロー同士でも変わらないはずだ。
当然、表で活躍するサファイアと、裏方に回ってしまっている僕とでは、相容れないこともあるだろう。
そういった状況である場合、やはり、一度はぶつかっておくべきだと、僕の中のヒーローが囁いているのだ。沢山の教科書にも、そうするべきだと証明がされている。
どちらが勝利を掴むにせよ、確実にいい絵になるはずなので、是非ともクリアしておきたい項目だ。
「・・・・・・またアニメか特撮の話っきゅ?」
「違うよ!ただの常識だよ!」
「そんな常識は知らないっきゅ。付き合わされるサファイアが可哀そうっきゅ」
「なんでいつももきゅはサファイア寄りなのさ。それに、挑んできたのは向こうだよ?これはいわば、正当防衛って奴だよ」
「過剰すぎる防衛の間違いっきゅ。一度は矛を収めたんだから、それ以上はブラックローズに非が傾くっきゅ。そもそも酔っぱらってる方が悪いっきゅ」
「あーあー聞こえなーい。そんなこというなら、もきゅはその時がきたら家に帰ってるといいよ。僕一人で楽しむ事にするから」
「人間、時には争う事も大事っきゅ。きっとそれが、サファイアの成長に繋がるはずっきゅ」
自宅への待機を推奨すると、見事な手のひら返しを返してきた。
なんだかんだいいながら、このまんじゅうはそういった波乱が好きなので、楽しみながら見学するだろうということを僕は知っている。
戦闘シーンだってこっそり撮影して、後で見返しているくらいだ。
「自分だけ常識人ぶるの、良くないと思うなー」
「ブラックローズはもう少し建前を大切にしたほうがいいと思うっきゅ。それに、なんだか今日のブラックローズは変っきゅ。いつもならもっと慎重というか、悪く言えば臆病な感じなのに、かなり好戦的っきゅ。もしかして生き急いでるっきゅ?」
「そんなわけないでしょ。でも、なんだか気分がとってもいいんだ。いまならどんな敵が現れても勝てる気がするよ」
「まだ酔っぱらってるっきゅ?」
「ちーがーうー!きっとヒーローとしての素質が開花したんだよ!」
「妄言も程々にしておくといいっきゅ。それより、そろそろ目的地だから準備するっきゅ」
「はーい。彼女達は追いついてきてるかなー?」
「新幹線並みのスピードが出てるのに、ついてこれるわけないっきゅ」
「じゃあ、鬼ごっこは僕の勝ちだね。後は怪物退治だ」
目的地の近づいたので、速度を落として辺りを見渡す。
建造物が建ち並んでいる中、工事中の標識がそこらじゅうに沢山設置されている。開発区として改変されていくこの辺りでは物珍しくもない見慣れた光景だが、日も沈んでしまった時間帯では、何かが出そうな雰囲気が漂っている。
まばらに点在する人々は明らかに体調を悪くしており、近場に『ワンダラー』が出現したことは間違いないだろう。
感覚を研ぎ澄ますと悪意が漂っているのは感じるのだが、それと同時に何やら小さい爆発音のような物が聞こえる。もしかしたら、誰かが戦っているのだろうか。
「どうしよう。誰かに先を越されちゃったみたいだよ。これであの2人だったら、僕立ち直れないかも」
捕まえて見ろと挑発し、大口を叩いた上で敗北なんてしたら、最早一生顔向けできない気がする。
「それはないっきゅ。ワープでも使わない限り、先についてるなんて不可能っきゅ。それに、今のは銃声だと思うっきゅ」
「銃声?警察や自衛隊の方が戦ってるのかな?格好よく助けるチャンスだ!」
銃声だなんて穏やかじゃないし、普通の武器なんて『ワンダラー』に通用しないのは誰もが知るはずだが、新兵器でも開発されたのかもしれない。
勢いよく飛び出して、音の鳴るほうへと向かう。
建物の間を抜けて向かう間何度か乾いた破裂音が鳴り響くが、激しい戦闘音のようなものは聞こえない。少人数での突発戦闘なのかもしれない。
ピンチに駆け付けるヒーローを演出するチャンスを逃さない為にも、急いで音の発生現場へと辿りつくと、そこはビルが解体された後の広い空き地だった。
解体された後の鉄材や、それを可能にした機材が混在するこの場所ではすでに浄化の魔法が展開されており、片っ端から悪意を削られて苦しそうに身をよじり、我武者羅に不和を撒き散らす『ワンダラー』と、それを咎めている少女が相対していた。
輝く金色の髪を頭の両端で縛り、風に靡かせている彼女は、見た目から言えば魔法少女と判断して相違ないだろう。しかし、『ワンダラー』に対抗する手段として使用している武器は、魔法少女としては似つかわない、黒く鈍い光を返し冷たい雰囲気を放つ物だった。
金髪の少女はこちらの到着に気づきちらちと一瞥をしてくるが、それだけの反応しか見せず、また『ワンダラー』へと向き合い、銃を構える。
「もきゅ、あれって銃だよね。この場合、魔法少女が銃を使ってるのか、銃を使ってる人が魔法少女の格好をしてるのか、悩むところだよね」
「わざわざ魔法少女の格好する意味はないから明らかに魔法少女が銃を使ってるっきゅ。というかブラックローズだって銃を使ってるから不思議じゃないっきゅ」
「そりゃ、僕はヒーローだから銃だって使うけどさ。魔法少女って銃なんて物騒なもの使うの?しかも、なんか無骨だし」
魔法少女があまり銃を使うイメージはない。勿論、僕が知らないだけで使っている姿もあるだろうが、どちらかといえばもっとデコレーションが効いている、玩具の銃みたいな印象だ。
「その違いが全然分からないっきゅ。ただ、あれは多分、魔法の銃じゃなくて実銃っきゅ」
「実銃!?魔法少女が!?」
戦っている姿に注視すると、彼女が手に持つ銃の引き金を引く度に銃弾が発射され、『ワンダラー』の身体に炸裂しているのが見える。
本物の銃を見るのは初めてだが、明らかに普通の銃とは思えない破壊力をしており、音のする度に『ワンダラー』の身体を容易に削っている。また、銃を撃つ彼女にもかなりの反動があるのが見えるので、魔法で威力でも上げているのだろうか。
到着時にはすでに満身創痍といった様相を見せていた『ワンダラー』は、触腕を伸ばして金髪の少女へ攻撃をするも、全て届ききる前に銃弾によって弾かれてしまい、そのまま段々と悪意を削り切られ消滅する。
後には倒した証でもある魔石と、地面や壁を深くえぐった弾痕だけが残る。
「銃って流れ弾とか怖いねー」
「それくらい、多少は気を付けて撃ってるわよ」
「多少なんだね」
「当然でしょ。怪物を倒すのに、全てに気を遣ってなんていられないもの」
もきゅに話の種と向けた言葉だったが、先ほどまで戦っていた少女に聞かれてしまったようで、目を細めながら反論を仕掛けてくる。
金髪に碧眼と、僕のイメージする外国人というイメージに当てはまる容姿をしている彼女は、腰に手を当てながら不可解そうに言葉を続ける。
「それよりも、途中から観戦していたみたいだけど、少しは手伝ってくれてもいいんじゃない?」
「人の獲物を横取りするのは僕の主義に反するんだよね」
「横取りって・・・。魔石が欲しいならあげるわよ。別に私には必要ないから」
そういうと、彼女は先ほど倒した『ワンダラー』が落とした魔石をこちらへ放り投げてくる。
サイズでいうと200ポイントくらいになりそうだが、それをポンッと渡せるなんて、お金に執着がないのだろうか。
「それを換金しておいしいものでも食べなさい」
「いや、魔石が欲しいって言った訳じゃないんだけど」
「委員会だって、魔石は必要としてるでしょ?それに、お金はいくらあっても必要になるものよ。遠慮せずにとっておきなさい」
「あー・・・それじゃあ、お言葉に甘えて貰っておくね。ありがとう」
「えぇ、子供は遠慮しなくていいのよ」
金髪碧眼かつ釣り目にツインテールと、正にツンデレのテンプレとも言える容姿をしている彼女だったので、そういった性格を想像していたが、そんな想像を打ち砕くように、本人は胸を張ってお姉さんぶっている。そうありたい時期なのだろう、きっと。
それよりも、『委員会だって、魔石は必要としてる』というセリフは少しおかしなものがあるな。まるで自分は委員会の魔法少女じゃないみたいな台詞だ。
多分、野良の魔法少女であるという想像は付くが、最近なったばかりの子であれば、そんな事情はまったく知る由もないだろう。
そして、魔法少女服。暗くてはっきりとは分からなかったが、青と紫の花を模した服装は最近見覚えがある。
「ちょっと聞きたいんだけど、君って魔法少女アイリス?」
「だとしたら、なにかしら?」
どうやら警戒させてしまったようで、銃に手を掛けて牽制してくる。
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