頭隠したつもり
「まぁ、君がヒーローを続けられてるようで何よりだよ。あのまま辞めちゃうかもしれないと思ったし」
「ワシが勇者を辞めるわけがないのじゃ!とはいえ、今日もガーネットに呼び出されてるのじゃ・・・。色々覚えることとか注意しなければいけないことが多いし、杖の仕様も禁止されたから、魔法もほとんど使えないし・・・」
「そこは甘んじて受け入れるべきだね。むしろ優しい対応だと思うよ?」
「分かっておる。ガーネットが面倒を見るからということで、しばらくは様子見だそうじゃ」
どの程度ガーネットが説明をしたかは知らないが、地盤を崩す程の環境破壊をしたのだから火遊びのレベルは軽く凌駕しているだろう。
それを考えれば、未成年とはいえ現状の対応は温いとすら言えるのかもしれない。
まぁ、あまり厳しい対応をして魔法少女に暴れられるのも問題だと考えたのかもしれないし、もしくは戦力の確保が優先と考えたのかもしれないが、いずれにせよだろう。
「そういえば、ガーネットに呼び出されたっていってたけど時間は大丈夫なの?結構話し込んじゃってるけど」
「うぇっ!?今何時じゃ!?」
おいしそうにオレンジジュースを飲んでいたメープルだが、時間の事を忘れていたようで慌てて懐から携帯電話を取り出して確認している。赤いほっぺがどんどんと蒼白になっているのを見る限り、遅刻して良そうなのだが大丈夫なんだろうか。
反省期間中に遅刻なんて印象が悪いなんてものじゃないが、話し込ませてしまったのは僕の責任でもあるので気まずいな。
「おいっ!魔女っ娘!時間までに大扉前にいろって言ったよな?ゲート入ったらそのまま待機するだけだろうが。オマエはじっとしてることもできねぇのか?」
「い、いや。これには深いわけがあるんじゃ・・・!決して忘れてたわけでは・・・!」
「テメェは携帯すらマトモに使えねぇのか!?忘れてねぇなら確認くらいするだろうが!何度電話したと思ってんだ!!早めの集合時間にしたからいいものの、遅刻なんてしてみろ!様子見の意味わかってんのか!?」
どうやら人の事を魔王だと伝えたハレンチ女が、遅刻しそうなメープルの迎えに来たらしい。
早めの時間を伝えているあたり、こうなるかもしれないという想定をしていたのだろう。相変わらず、言葉とは裏腹にかなり心配性で親切な子だ。
僕のことを適当に伝えた不満を漏らしたいところだが、まずは助けを求めているメープルを取りなしてあげるのが先だろう。
メープルのことしか目に入っていない様子の彼女に、手を振ってアピールしながら声を掛ける。
「ごめんね、ガーネット。僕がちょっと話を聞いてたせいで時間を取らせちゃったみたいで」
「あ?黒いのじゃねぇか。なんでここにいるんだ?とうとう委員会にでも入ったのか?」
「まぁ、そんなとこだよ。それより、僕が言うのもなんだけど、時間大丈夫なの?」
あまり嘘を重ねると、バレた際に痛いしっぺ返しを食らいそうなのでかなり濁して伝えるが、ガーネットは僕の発言を気にする様子はない。ちょろいな。
「一応時間は大丈夫だ。ガキ共は時間に遅刻することが多いから、大体1時間早く伝えてあるんだよ。コイツの家までわざわざ迎えにいったのにもういなかったから、時間を守る気自体はあったみたいだがよ。集合場所にいねぇと意味ねぇだろうが」
「申し訳ないのじゃ・・・」
「ほんと気を付けろよ。ほら、さっさと学校までいくぞ。黒いのも学校に用があるなら一緒にいくか?」
「いや、僕はたまたま用事があっただけだから気にしないで」
同行を誘ってくれるガーネットの言葉は嬉しいが、部外者だとバレる可能性があるので早めに一人になりたい。でも、魔法少女達がどんなことをしてるのか気になるので、僕はこっそり陰で見学でもさせてもらうことにしよう。
そうやって別れの挨拶をしようとしたとき、着信があったのかガーネットが携帯を取り出し何やら話を始める。
盗み聞きはよくないので少し離れて待っている間、メープルに催促されて連絡先の交換をする。
ガーネットは何やら短い言葉の応酬をした後、不可解な顔をしながら何故か僕に携帯を渡してくる。その表情をしたいのは僕なのだが、意味が分からない。
「え、なに?それ僕の携帯じゃないよ?」
「んなこたぁ分かってる。オマエに替われってよ」
僕に携帯を渡せなんて言ってる時点で、潜入がバレているということだろう。例え監視カメラがあろうとも、これだけいる魔法少女の中ピンポイントで部外者を見つけるなんてことできるとは思えないのだが。そもそも潜入といってもまだエントランスから移動してないし、悪い事は何もしてないよ。
疑問で頭がいっぱいになりながらも、危険物を扱うように携帯を受け取る。
「もしもし。宅配便ですが」
「初めまして、ブラックローズさん。私は連盟の盟主を務めさせていただいております、エンプレスと申します。普段は宅配便のお仕事をしているのでしょうか?申し訳ありませんが、今回はそちらのお仕事のお話ではなく、少し貴女とお喋りでもしたいと思いましてご連絡をさせて頂きました」
なんで名前までも知ってるんだろうか。個人情報の流出が懸念される。
いきなり正解を当てられたせいで、きっと今の僕の表情はへの字の口がこれ以上曲がらないくらいには歪んでいることだろう。
「何故僕の名前をご存じなのでしょうか?」
「ついさっきガーネットに聞きましたので」
裏切者はすぐそこにいたようだ。いや、彼女は僕が委員会の一員だと思っているだろうし、そうじゃなくて裏切りとは違うだろうが。
しかしそれにしても、ピンポイントでガーネットの電話を鳴らしたあたり、監視されていると見た方がいいだろう。
「それで、ご用件はなんでしょう」
「先ほども言った通り、貴女とお喋りがしたいと思いまして。サファイアからはお噂はかねがね聞いておりまして、前々から興味がありましたので。お茶もご用意致しますので、よろしければガーネットと一緒に学校まで来て頂けないでしょうか?」
「あー・・・。うん、わかったよ。楽しいお茶会を期待しておくよ」
「はい。それでは、お待ちしております」
通話を切ってガーネットに携帯を返す。
何か聞きたそうにこちらを見てくるが、僕には何も答えられないのでその視線は無視をして、ついていくことだけ伝える。
このまま逃げてしまおうかとも思ったが、相手は僕の事を知っているのに、こっちは相手の事を知らないのは面白くない。最低限こちらも、なにか弱みなり握っておきたい。
それに、もうバレてしまった上で招待を受けたのだし、お客様のようなものだろう。盟主様から免罪符を貰ったのだから堂々と向かう事にしよう。
サファイアよりは堅苦しくないといいなぁと思いながら、ガーネットの案内の元学校まで向かう。
ガーネットとメープルと共に学校へ向かうと、校舎の入口付近で折り紙で作られた鳥へと案内役が変わった。
何を言っているのか分からないと思うが、宙へ羽ばたく折り紙が入口で待機しており、ついて来いと言わんばかりに僕の先を進み始めたのだ。
最初はよく分からなかったので、ガーネットに別れを告げられた時は放置されたと思ったのだが、折り紙が嘴で僕をつついてきたのでようやくこれが新しい案内役なのだと気づいた。
折り紙が羽ばたいているのは流石魔法だと感心してしまうが、思い返せばメープルも玩具を動かしていたのでなんらおかしいことはなかったな。
しっかりと着いてきてるか、ちょくちょくとこちらを振り返る素振りを見せる折り紙から離れないように上階へと昇っていくと、他の教室とは違う装飾の扉の前へと案内される。
早く開けろと扉に激突を繰り返す折り紙の望むままに扉に手を掛け開くと、質素な部屋と、それに似合わないまるで王女のような恰好をした少女に迎えられる。
「ようこそ、魔法少女学校へ。招待を受けてくださって感謝します」
「こちらこそ、招待いただき光栄だよ」
目の前にいる少女がエンプレスであることは、先ほどの発言で確定だろう。
名前からしても如何にもという格好をしているし、折り紙の鳥を手に留まらせている姿は気品に溢れている。
流石、魔法少女連盟なんて大層な組織のトップともなると、見た目からしても常人とは違う物があるのだろう。
「どうぞ、お座りください。お茶菓子もちゃんと用意してありますよ?」
「これはどうも。それじゃお言葉に甘えさせて頂くよ」
エンプレスが促す場所には円形のテーブルと2人分の椅子があり、テーブルの上には何種類かのお茶菓子と紅茶が用意されていた。
見たことのないお菓子しかなかったので非常に気になるし、談笑をする前に取り合えず味見をするとしよう。
「エンプレスさんは座らないの?お菓子おいしいよ?」
「え、ええ・・・。物怖じしないんですね。警戒されていると思っていたのですが」
「エンプレスさんは、僕の敵なのかな?」
「いえ、違いますよ。そうですね、私も頂くとしましょう」
椅子に座ってクッキーのようなサクサク感のあるお菓子を食べながら、まだ座ろうとしていないエンプレスにこちらから同じように促す。
僕が警戒すると思っていたのかもしれないが、毒でも入っているわけではあるまいし、出されたお菓子は食べないともったいない。
エンプレスも席に座り、お茶を飲んで一息つきながら、2人でおいしいお菓子を楽しむ。
それにしても、そろそろ日も落ちる時間だと思うのだが、この世界の明るさは変わる様子を見せない。そもそもお日様は存在してないから当たり前ではあるのだが、朝昼晩の概念がないのは体内時間が狂いそうだ。
窓の外から入ってくる謎の光に、今更ながら疑問を抱いてボーっとしていると、エンプレスから先制パンチが飛んでくる。
「サファイアからブラックローズさんの事を委員会に招待したと聞いておりましたが、大扉から入ってくるとは思いませんでした。ご来校されるのは初めてですよね?サファイアは一緒ではないのですか?」
「いやー、魔法少女学校っていうのが気になっててね。ポータブルゲートなんて便利なものがあるのを最近知ったから、どうせなら使ってみようと思って」
「そうですか。如何でしょうか?このまま連盟に入って頂いても良いのですよ?」
「いまのところは保留させてもらおうかなー」
お茶菓子を嗜んで物腰が柔らかい感じを出しながらも、かなりズバズバと言葉の刃で斬り込まれる。
何もかもわかってますよみたいな態度でいられるのは、会話の主導権を握られているようで気に食わないが、こちらから切れるカードなど何もない。
疑問に思ってることを取り合えず質問していこう。
「なんで僕がいることが分かったか、聞いてもいいかい?」
「そうですね。私は貴女と敵対したいわけではありませんし、ある程度は開示するとしましょう。私の魔法適正は『契約』を主としています。魔法少女学校にした方には、まず契約書に名前を書いて頂いておりまして、そこに名前が書かれている方以外が来校された場合、すぐ分かるようになっております。要するに、私は魔法によってこの魔法少女学校にいる人物全員のことを把握できますし、どこにいるのかも分かるのです。ですので、エントランスにガーネットと最近加入したメープル以外に、契約書に名前のない正体不明な人物がいたので気になってお声がけさせて頂いた次第です」
「へー・・・便利だねー・・・」
監視カメラとかそういうレベルじゃなく凶悪な魔法を使っていたようだ。
それぞれの国のメインゲート前で受付をしていた人たちが使っていた紙も、きっとその一つなのだろう。契約書に名前のない人物がうろついていたらすぐわかるとか警備体制万全じゃないか。
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