ロマンと便利は対極にいる

 クォーツ達と別れデパートから抜け出した後、駅へ向かうふりをして誰にも見つからないように裏路地へ隠れ変身をして、家までの道をダッシュで帰る。

 インビジブルとアクセルを併用することで誰にも見つからずに街中を飛び跳ねることが出来るので、注意をしなくても大丈夫という状況にテンションが上がりながら、最短経路での帰宅に成功する。これからはもう、電車や車なんて使っていられないな。



「さて、魔法少女におうちがバレてしまったわけだが、どうしよっか。ローズのおうちとしてだけど、うっかりブラックローズの姿が見られちゃったら大変だ」


 おうちに帰って荷物を置いて服を脱ぎ棄て、ベッドへダイブした後、同じように隣へ放り投げたもきゅへと相談をする。ころころと転がるまんじゅうは、毛布を身体に巻いてリラックスしながら相槌を打ってくれる。


「免許証なんて見せた時点で住所はもうバレてるっきゅ」

「しょうがないじゃん!うっかり出しちゃったけど大人だって証明に手っ取り早いんだから!」


 二十歳の証明をしてくれますか?と聞かれたら身分証明書として免許証を出してしまうのが成人の性だろう。住所が一緒に書かれていることを忘れていても仕方ないはずだ。


「っきゅ。住所の事はあまり気にしなくてもいいと思うっきゅ。どうせ出入りはこれからインビジブル使うっきゅ。それなら見つかる心配なんてないっきゅ」

「まぁそうなんだけどさ。自分の所在地が割れてるのってなんか落ち着かないんだよね」


 タブレットで集めた悪意を『ミニワンダラー』にして、ぽちぽち叩いて潰しながら会話を続ける。小鳥遊ちゃんがクォーツという情報が流出しているかもしれないから、今日はちょっと早いけど片っ端から悪意を消していく。丸いミニキャラが×の目をしながら破裂する姿はやっぱりゲームのようだ。


「ブラックローズとローズは別人だけど、僕からしたら同一人物だからさ。どうしても気になっちゃうんだよねー」

「まぁ、それならいい方法があるっきゅ」

「いい方法?」


 なんだろう。僕のおうちをインビンジブルするとかだろうか。それとも魔法少女達の記憶をぱーんっするとかだろうか。


「前にアプリを改造して色んな機能を自由に使えるようにしたっきゅ」

「あー、あったね。便利になったよねー」


 ちょっと前に、もきゅが自分を捨てていった妖精達への嫌がらせとしてアプリを改造し、色々な権限を自由に――ストアで使えるポイントも含めて、使えるようにした。その結果、ストアは使い放題だし、調子に乗って注文したたくさんの魔法の本が部屋の隅に積まれている。というかあの本の山をなんとかしないと魔法少女って簡単にバレる。

 使っているのがストアだけなので他の権限がどんなものかはさっぱりだが、どうにかなるのだろうか。


「管理者権限も自由に使えるようにしたから、魔石のエネルギーも使いたい放題っきゅ。せっかく好き勝手できるんだし、秘密基地とか興味ないっきゅ?」

「秘密基地!?!?」


 タブレットを放り投げてもきゅに掴みかかる。飛んでったタブレットは積まれた魔法の本へとぶつかり雪崩が起きるが、そんなの気にしている場合ではない。

 掴んだもきゅを上下に振りながら先ほどの言葉をもう一度吐かせる。


「秘密基地なんて作れるの!?どうやって!?」

「きゅううううぅ!!教えるから話すっきゅううぅぅ!!!!」


 ヒーローと言えば秘密基地、秘密基地といえばヒーロー。秘密基地とヒーローは切っても切れない関係だろう。

 それが作れるなんて、素晴らしい。いままで足りていなかったピースが埋まるようだ。

 今住んでいる所は賃貸だが、そこから出動するヒーローというのはいままでどうにもしっくりこなかったのだ。その理由が今、はっりきと分かった。

 秘密基地だ。秘密基地が足りなかったんだ。

 ヒーローの正体は誰にも言うべきではないというポリシーが僕にはあるのだが、住んでいる家だって秘密でいるべきだろう。敵にも知られるわけにはいかないし、人々にだって知られてはいけないのだ。そして、その秘密基地は様々な物が置いてあるのだ。

 決して今のようにベッドとソファがと机があって、テレビを見ながら談笑するような生活空間に溢れている物じゃないし、こじんまりだってしてない。まぁ、友達は付いてこないだろうから、いくら大きかろうと不便が勝るだけの、一人と一匹の秘密基地だろうが。

 だがしかし、ヒーローがいるべき場所として相応しいものはこれ以上あるだろうか、いやない。

 これからは薔薇色の生活が始まるのかと思えば、手に力が入るというものだ。


「手に力をいれるなっきゅううぅ!!!妄想に浸ってないで離すっきゅううううぅぅ!!!!!」


 僕のヒーロー生活は、彩り留まることを知らない。






「まったく!興奮すると周りが見えなくなるのは悪い癖っきゅ!!一般人を傷つけるなんてヒーローとしてどうなんだっきゅ!!」

「もきゅには言われたくないんだけど。それに、妖精は人でもないし一般的でもないよ。そんなことより、早く教えてよ」


 短い手で叩いてくるもきゅをいなしながら、早く教えろと携帯でつつきながら訴えかける。白いまんじゅうの身体がぷにぷにとして可愛い。

 もきゅは流石に鬱陶しくなったのか、僕の手から携帯をひったくってポチポチと操作を始める。


「ひっみつっきち。ひっみつっきち」

「うるさいっきゅ!大人しくしてるっきゅ!」

「はーい」


 怒られてしまったので仕方なく大人しくすることにする。

 待っている時間にお風呂でも入ろうかと思ったが、気になって仕方ないのでこの場から動きたくない。

 とりあえず邪魔にならない程度に、携帯を弄っているもきゅへと問いかけをする。


「それで、結局何してるの、それ」

「っきゅ。魔法少女学校やもきゅの故郷は、別の世界にあるっていったっきゅ」

「なんか言ってたね。もきゅはパスがないから故郷へ帰れなくなったっていってたけど」

「っきゅ。正確には、この世界と別の世界を繋ぐゲートを通る権限がなくなったっきゅ。まぁ、それはいいっきゅ。大まかにいうと魔法少女学校も同じような仕組みで出来ていて、その世界に繋ぐためのゲートは魔法少女にしか開けないっきゅ。どこからゲートを開いてもその世界に繋がるようにできているから、魔法少女学校には世界中の魔法少女が集まるっきゅ」

「ふーん。そういう仕組みだったんだ。魔法少女学校って名前しか知らなかったからどんなものかと思ったけど、世界中からって凄いね」


 世界中の魔法少女が集まる学校か。そう考えるとめっちゃすごいな。通うなんてことはしたくないけど、一度でいいから見てみたい。


「正確には、各国の主要な場所に大きなゲートがあって、そこからは魔法少女だけじゃなくて普通の人も行き来できるようになってるから魔法少女以外もいるっきゅ。日本だと特区って言われてる場所にゲートがあるっきゅ。まぁ、それは置いておくっきゅ。大事なのは、別の世界というものがあるということと、ゲートを繋げばそこへ行けるということっきゅ」

「ふむ?それが秘密基地とどうつながるの?」


 まさかと思うが、ゲートを魔法少女学校に繋げて、そのまま魔法少女学校を秘密基地にしてしまおうというのだろうか。学校に隠し扉を作ってそこを秘密基地にするっていうのは確かにロマンがあるが、さすがにまずい、というかバレると思うのだが。

 しかし、ロマンはいいぞ。その方法でも最悪いい気がしてきた。むしろいい気がしてきた。


「この別の世界というのは作ることが出来るっきゅ。魔石のエネルギーを沢山使うけど、どれだけ使おうがもきゅ達が困るわけじゃないから好きにするっきゅ」

「別の世界を作る!?スケールが大きすぎてもうよく分かんないよ」


 妖精はなんだ、神にでもなるつもりなのだろうか。それとも街作りゲームを世界規模で行おうとでもしてたのだろうか。


「世界を作るなんていっても、そんな大きいものじゃないっきゅ。小さいサイズだと大体A区くらいの大きさっきゅ」

「でかいよ。十分にでかいよ。いや、世界というなら確かに小さいかもしれないけど、個人で所有する大きさじゃないよ。もきゅの思う秘密基地ってそれくらいの大きさがあるものなの?」

「大は小を兼ねるって聞いたっきゅ。それに、魔法少女学校の敷地だってそれくらいはあるっきゅ。基地っていうならそれくらいはあるものっきゅ」


 そうだろうか?いや、秘密基地がどれくらいの大きさが適切なのかなんて知らないけど、少なくとも一つの区に匹敵する大きさなんてことあるはずがない。しかも僕ともきゅしかいないのにそこまで広い必要がどこにあるというのだろうか。手に余りまくるだろう。


「じゃあ、とりあえずはこの前いったデパートくらいの大きさにするっきゅ。かなり小さいサイズだからゲート用のエネルギーがもったいないけど、もきゅのじゃないしいいっきゅ」

「大型デパートだからそれでもでかいと思うけどね。豪邸でも作るれば話は別だけど」

「秘密基地は豪邸にするっきゅ?」

「いや、豪邸はなんか秘密って感じがしないかな・・・。とはいえ、あんまり無機質な機械がたくさんある部屋っていうのもなぁ・・・」

「じゃあ、どんなのがいいっきゅ?」

「いやぁ・・・よくよく考えたけど、いくら秘密基地とはいえ生活空間は大事だなーって。あと、魔法の本を何とかしたいね。調子に乗りすぎて沢山買ったけど、押し入れまでパンパンの上に部屋が埋まりそうだし」


 ロマンを追い求めるなら地下に作って全体的に鉄製の建物や部屋にすべきだろうが、正直そうしたら耐えられそうもない。理想と現実は違うということを分かっているので、なんだかんだ最低限の生活空間は欲しい。あとほんと本が邪魔。全部買おうと思ったけど、1割くらい買ったところで部屋が悲鳴を上げたので一旦保留にしている。本のかさばり方を舐めていた。


「じゃあ、おっきな図書館とかにするっきゅ。本もそこに移動すればいいし生活空間は談話スペースでも作ればいいっきゅ」

「図書館!いいかもしれない。本を抜いたら秘密の部屋が出てくるギミックとか!」

「どうせ作っても使わないっきゅ・・・」

「使わなくてもいいの!あることが大事なんだから!!」

「はいはい、わかったっきゅ。とりあえずそれで作るから、あとは待ってるっきゅ」

「はーい」


 ある程度時間がかかるようなので、その間にお風呂へ入ることにする。うきうき気分で入るお風呂は、いつもよりも疲れが取れるし気分は最高潮だ。


「あ、お風呂も作ってもらおう」


 図書館にお風呂とかよくわからないが、どうせなら付けて貰おう。

 綺麗好きというわけでもないが、この姿になってからどうしても髪の手入れをしたいことがある。魔法で保護することはできるんだけど、お風呂に入りながら弄るのも結構好きだ。

 最初は長すぎてめんどくさかったけど、こうやってゆったりしている時間も大切だろう。


 このあと欲しいものを色々注文を付けたら怒られた。

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