お嬢ちゃん。保護者の方に変わってくれる?

 少し考えれば分かる事だろう。遊園地で出会ったサファイアは、『ワンダラー』を討伐しに、クォーツを助けに来たに決まってる。というか本人がそういってた。当然、僕との会話を終えた後に向かう場所など、考えるまでもない。答えは背後にある。


「初めまして。私は魔法少女サファイアです。貴女の名前を教えてください」

「・・・・・・ローズです」


 君の名前がサファイアなのは知ってるよ。だってさっきも会ってたじゃん。

 だが、ブラックローズとローズが同一人物ということはバレていないようだ。小鳥遊ちゃんはドジだから気づいてないだけで、他の人にはバレるとかじゃなくてよかった。何せ他の人は髪の色だったり、目の色だったりと色々変わってる部分もあるけど、僕は服装しか変わってないから、普通はバレないほうがおかしいはずだ。魔法の力は凄いなぁ。


「ローズ・・・ちゃん。こんな事が起きて、混乱しているのも分かります。こんな状況でここに留まらせてしまうのも、貴女みたいな小さな子には酷であるということも理解しています。ですが聞いてください。貴女には2つの選択肢があります。1つ目は、このまま魔法少女クォーツを、小鳥遊桃の事を忘れて二度と関わらないこと。2つ目は、小鳥遊桃との関係を変えない代わりに、いくつかの約束事をしてもらうことです。これは、貴女の為でもあるのです。どうか、よく考えて決めてください」

「えっと・・・」


 ごめんサファイア。突然言われても理解が難しいよ。関係を絶つか、絶たないかの選択肢を迫られているということは、やっぱり正体を知っているのはよくないってことなのだろう。それが僕の為でもあるといわれてもよく分からないけど。あと僕は小さい子ではない。


「いーんちょー!それじゃわからないよー!それに、小さい子に掛ける言葉じゃないでしょー!まったく、いんちょーちゃんに任せたわたくしがおばかだったよー。あのね、ローズちゃん。小鳥遊ちゃんとお友達でいたい?いたくない?まずはそれからだよ」

「いたいです」


 正直友達かどうかは怪しいところであるが、連絡先を交換する約束をしている時点で友人といっていいだろう。それに、せっかくのヒーロー友達と関係を絶つだなんて、もったいない。


「うん。そーだよねー。友達とは別れたくないよねー。じゃあねー。おかーさんか、おとーさんを呼んできてほしーんだー。大事なお話があるからねー」

「え。お母さんかお父さん?」

「うん。そーだよー。あ、もしかして今日は一人でここまできたのかなー?そしたらー、どっちかの電話番号教えてくれるかなー?おうちの番号とか、わかるー?」

「えっと・・・それは保護者の方が必要ということですよね?何のためにでしょうか?」

「あ。悪い事しよーとしてるわけじゃないよー。わたくしたちはせーぎのまほーしょーじょだからねー。ただ、ちょっと難しい話になっちゃうからー。ローズちゃんだとわからないかもしれないからー」


 どうしてそんなことを聞かれるのか最初は分からなかったが、今は完全に理解した。僕は小さい子ではないのだが、小さい子だったということだろう。


「あの、僕って何歳に見えます?」

「うーん?小学生か中学生くらいに見えるから、12歳かなー?あ、もしかして14歳くらいだったりするー?それでも、まだまだ子供だよー」

「いえ、その・・・僕はもう成人しています」


 お財布から免許証を出して渡すと、受け取ったアベリアは丸い目を見開いてもっと丸くする。周りで話を聞いていて、それが事実だと分かった残りの2人も、遅れて驚愕の表情を見せる。ちょっと待て。クォーツが驚くのはおかしいだろ。



「勘違いしちゃってごめんねー。まさかこんなに小さいのに大人だったなんておもわなくてー」

「いえ、慣れてるんで大丈夫です」


 実際は全然慣れてないけど、大丈夫だ。僕は大人だだけど身体は子供なんだ、仕方ない。だがそれよりも。


「なんでクォーツまで驚くのさ。僕がコンビニで働いてるの知ってるでしょ」

「えっと、ちっちゃいのにお店番出来てて、えらいなーって・・・」

「コンビニで子供が店番することなんてないでしょ。職場体験してるわけでもないんだし。それに、あんな時間に子供を働かせてたら労基の人がグーで殴り込みに来るよ」


 深夜の0時過ぎまで小中学生に店番させるとか、各方面に喧嘩を売っているとしか思えない。だが、魔法少女の現状はそんな感じだから、もしかしたらそういった感覚が壊れているのかもしれない。特にサファイアなんて昼も夜も活動してるみたいだし、その背中を見てたなら働くとはそういうことなのだと勘違いしても仕方ないかもしれない。


「とにかく、僕はもう成人してるから大丈夫なんじゃないかな?それとも、連帯保証人が必要だったりする話?」

「れんたいほしょーにんが何かは分からないけどー、だいじょーぶですー。そしたらー、お時間だいじょーぶな日を教えてくれますかー?そちらのおうちまでお迎えにあがりますのでー」

「もしかして、今日中に終わらない感じ?」

「ごめんなさいー。細かい注意事項も、契約もありましてー。あとー、難しーお話は大人の方々でしてもらいますのでー」


 お迎えかー。魔法少女関係者に自宅がバレるのはあまり好ましくないんだけどなー。でも、断ることもできないし、仕方ないか。魔法少女であることがバレないようにだけは気を付けないと。


「いや、分かったよ。それじゃ、明後日ならいつでも大丈夫だから、その時にお願いするね。」

「はいー。では明後日のお昼頃にお迎えしますー。地図を用意しますのでー場所を教えてくださーい。いーんちょーちゃんも、いつまでも拗ねてないで働いて下さーい」

「拗ねてなどいません。自身の至らなさを反省していただけです。ローズ・・・さん、今この場では、クォーツの正体を誰にも話さないことをお約束ください。細かい話は後々になりますので、取り合えずはという形になりますが」

「ローズちゃんでもいいんだよ?元から、魔法少女の秘密を誰かに話すつもりはないから問題はないよ。約束する」


 普段はカッチリ真面目なサファイアが、ここまであたふたしてる姿は新鮮だな。まぁ、魔法少女ブラックローズは味方というわけではないし、こんな姿見せるわけはないだろうが。


「さーて、難しいお話はここでおしまいにしてー。クォーツちゃーん。治療のお時間ですよー。椅子にお座りくださーい」


 アベリアがどこからか取り出した折り畳み式の椅子をセットして、クォーツに座るように促す。名前を呼ばれたクォーツは大人しく座って姿勢正しくアベリアと正面から向かい合う。病院の診察みたいな状況が出来上がった。

 アベリアは手にペンライトを持ち光を付けると、怪我をしてるほっぺたに光を当てながら話を続ける。


「クォーツちゃんのお友達ということですのでー、せっかくですしわたくしの魔法をお見せしましょー。クォーツちゃんは魔法力を乱さないようにしてくださいねー」

「うん、多分、大丈夫だと思う」

「あまり緊張しなくても大丈夫ですよー。いつも通りにしてくれれば問題ないのでー。はーい、それじゃいきますよー。『いたいいたいのとんでけー』」


 誰もが聞いたことあるようなおまじないをアベリアが言葉にしたとき、ペンライトの光が綺麗な青色に変化する。輝く青の光が傷口を照らし続けると、徐々にその傷口が塞がっていく。顔、腕、脚と、順番に光を当てていき、アベリアがペンライトを消したときには、クォーツに傷跡は見えず元の姿へと戻っていた。


「これでよーし。違和感はないかなー?大丈夫かなー?」

「うん!元通りだよ、ありがとうメイちゃん!」

「どういたしましてー。でもでも、しばらくは安静にしてくださーい。わたくしの魔法で怪我を治すと、しばらくは魔法力が乱れてしまいますのでー。それにー流れた血は補えませんしー。魔法の使用はリハビリ時のみ許可しますー。それじゃー治療も終わったし変身解除しちゃって大丈夫ですよー。もう関係者の人しかいませんのでー」


 まだ警官の格好を人たちが残っているのだが、アベリアは関係者しかいないと断言した。つまり、警察はもう魔法少女と手を組んだ体制を取っているか、もしくは今ここにいる人たちが特別そういった事を任されているのだろう。

 治療の終わったクォーツは、アベリアに勧められた通り変身を解除し、魔法少女クォーツから小鳥遊桃へと戻る。ボロボロだった魔法少女服から、シンプルな子供服へと変わった彼女は、さっきまで怪物と戦っていた少女とは思えないだろう。


「さて、小鳥遊さん。下に車が用意されているようですので、本部まではそれで帰りましょう。命令を無視したことについては後でお説教がありますので、そのつもりでいてください」

「お、お手柔らかにお願いします・・・」


 人を助けたとはいえ、それはそれという事なのだろう。お説教が確定した小鳥遊ちゃんは、自分の未来を想像して今から震えている。

 まぁ、最悪もあった可能性もあるのだし、十分にお説教されてきて欲しい。過去を払拭し前に進むためとはいえ、仲間たちに心配を掛けたのは事実なのだろうから。

 仲間かー。いいなーこういうのも。

 小鳥遊ちゃんが戦っている間も、サファイアは助けるために駆け付けていたし、アベリアも怪我をする子の為に動いていたんだろう。ヒーロー同士の助けあいは、眺めるだけでも良い物だ。

 僕もそういった協力体制はしてみたい気持ちはあるが、結局は一人で動きたくなってしまうんだろうなぁ。固定されたパーティというのはどうにも性に合わないのだ。


「ローズさん。よろしければ、貴女もご自宅までこちらで送らせていただきますが、いかがいたしますか?」

「いや、僕は遠慮しておくよ。ちょっと一人で考えたいこともあるしね。あと、ローズちゃんでいいんだよ?」


 乗せていって貰うよりも、変身して帰った方が断トツに早い。変身を見られるわけにもいかないので、残念だが僕はここでおさらばだ。


「そうですか。いえ、確かに考える時間は必要ですね。それでは、ローズ・・・ちゃん、私たちもこの辺りで失礼します。出口まではあちらの方が案内してくれますので、その指示に従って安全にお願いします。また後日会いましょう」

「うん。またね。それと、小鳥遊ちゃん」

「はいっ。なにかな、ローズちゃん?」

「連絡先の交換、しない?」

「します!!」


 せっかく一度は提案してくれたことだし、今度は僕のほうから提案をして、携帯を取り出して軽くアピールすると、小鳥遊ちゃんは勢いよく飛び出してその手を掴んでくる。安静にしてろって言われたばかりだから落ち着きなさい。あと顔近いよ。

 連絡先を交換した小鳥遊ちゃんは、携帯を見つめて顔を緩ませてにまにましている。ヒーローにあるまじきこんな姿、世間様には見せらないな。

 さて、用事も済んだし家に帰ろう。何故か新しい用事も増えてしまったが、どんなことをするのか分からないし当日考えよう。


「メイドちゃんも、魔法見せてくれてありがとう。とても綺麗だったよ。またね」

「どういたしましてー。細かいお話は明後日ですけど、魔法の事も秘密でおねがいしますねー。それではー」


 全員に手を振りながら、出口まで案内してくれる警察の方の後を付いていく。

 今日はもの凄く忙しい日だったな。まさか服を買いに来ただけなのにこんなことになるとは思わなかった。しかし、その分収穫もたくさんあった。

 クォーツという魔法少女のヒーロー姿を拝ませて貰ったし、それを支える人たちも、助けに来る魔法少女も見ることができた。魔法少女と警察が手を組んでいるところも見れたし、きっとこれからはもっともっと魔法少女が世間に認められていき、ヒーローとしての立場を確かにしていくのだろう。

 そして新たな『ワンダラー』。建造物にすら被害を与えるようになった怪物は、これから先もどんどんと現れるのだろう。その時に、魔法少女とその他の人類が手を取り合えなければ、どこまでもその被害は広がり続けてしまうだろう。

 光が強くなれば影も強くなると言う。もしかしたら、魔法少女が今以上に強くなっても、『ワンダラー』もまた進化を続けるのかもしれない。だが、人類とヒーローが協力することが出来れば、ヒーローはもっともっと輝きを増すことができるだろう。

 そして、その影を塗りつぶすくらいの輝きを放つヒーローの姿を、僕はもっと見てみたい。

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