第3章 気持ちのすれ違い
「春歌おはよう!(眠いな。)」
「おはよ、春歌。」
「おはよう!あ、ああ!今日日直だから早く教室行かなきゃだ。2人でゆっくり行ってて。」
朝、本来なら3人で登校するけど、菜緒と陽大くっつけるためにわざと日直って嘘ついちゃった。でもこれで2人きりで登校することになるんだから。きっと私今、割といい事したんじゃない?
その日のお昼休みも、
「春歌ご飯一緒に食べよう?(お腹すいたな。)」
「おう、食べようぜ。めっちゃお腹すいたあ。」
「ごめーん!今日委員会があるから一緒に食べれないや。2人で食べて!」
「分かった。(春歌最近冷たい。)」
冷たいと思われても2人をくっつけさせたいし、しょうがないよね。少し駆け足で廊下を歩く。
「なあ春歌。」
急に腕をつかまれた。
「え、陽大。なんでついてきたの、菜緒は?」
「俺、最近春歌と一緒にいれないの寂しいんだけど。」
陽大は目をそらしてぼそっとそう言った。
「どうしたの急に。」
「だから寂しいって言ってんの。だって俺、お前のこと…、いや、なんでもない。委員会頑張れよ。」
「…うん。」
なんなの、たまに陽大の考えてることが分からない。
「本当は陽大の心も読めたらいいんだけどな。」
そう、急に私の周りの人の心を読めることにはなったけれど、なぜか陽大の心だけは読めないのだ。もし陽大の心も読めるようになったら2人をくっつけさせる作戦も円滑に進むはずなのに。しかも、なぜか陽大に腕をつかまれて少し嬉しくなったというかドキドキしたというか。
「ドキドキしたのは、気のせいだよね。」
だってもう私、陽大のこと恋愛対象として見てないんだから。私は2人をくっつけさせなくちゃいけない。変なこと考えないようにしなきゃ。そう思いながら、1人でご飯を食べるために空き教室を探していた。
探している途中、中庭で菜緒と陽大の姿が見えた。立ち止まって2人の様子を見ていたら、2人とも笑顔で楽しそうにご飯を食べている。すごく幸せそうだ。
「あ、2年の南菜緒先輩と田中陽大先輩が2人きりでご飯一緒に食べてる!(絵になるなあ。)」
たまたま私の横で中庭を眺めていた1年生の会話が聞こえた。
「それな!2人って美男美女でお似合いだよね。(付き合ってるのかなあ。)」
やっぱりみんな2人のことお似合いって思うよね。付き合ってほしいと思うよね。
「でも、いつももう1人いなかったっけ。ちょっと鈍くさい感じの女の先輩。(確かあんまりかわいくなかった気がする。)」
「ああ、確かに。でも今日はいないね。(ああ、あんまかわいくない方か。)」
かわいくない方。私って周りからそう思われてるのか。小学生の頃からずっと一緒にいたけど、私って2人といると浮いてみえるのかも。でも、前から自分が運が悪くて鈍くさいし、かわいくないのは知ってた。もしかすると、私と2人とでは住む世界が違うのかもしれない。陽大は、私より菜緒との方がお似合いなんだよな。そうだよな。そう思うと、心がもやっとした。別に陽大のことはもう好きではないのに。
「春歌。今日2人だけで帰れる?(お願い、絶対一緒に帰れますように。)」
菜緒と陽大をくっつけよう作戦をしてから数日が経ち、突然菜緒に言われた。
「んー、でも。」
ここのところ、菜緒と陽大をくっつけさせるために色々なお誘いを断ってきていたから少し気まずい。
「今日は絶対、春歌と一緒に帰りたいの。(話したいことがあるから。)」
「わ、分かった。」
話したいことってなんだろ。
放課後、夕焼け色の通学路を菜緒と一緒にゆっくりと歩いていた。でも、会話はなかった。ちらっと菜緒の方を見ると、菜緒は少し寂しげな顔をしていた。
「なんで最近冷たいの?(私もしかして春歌に変なことしちゃったのかな。)」
菜緒はぽつりと小さな声で私に聞いてきた。
「別に菜緒は悪くないよ。」
「じゃあなんで私に冷たいの?(本当のことを教えてほしい。)」
「それには色々理由があって。」
食い気味で急に問いかけてきた菜緒に少しびっくりした。だって菜緒はいつも落ち着いているから。やっぱり、幼馴染で親友の菜緒には特殊能力のことを打ち明けたほうがいいのかもしれないのかな。
「幼馴染で親友の菜緒には特殊能力のことを打ち明けたほうがいいのかもしれないのかな。」
「へ?」
「そう思ったでしょ、今。」
「なんで分かったの。」
その瞬間、テンパってしまって菜緒の心が読めなくなってしまった。すると菜緒はゆっくりこう言った。
「実は、私も人の心が読めるの。」
驚きすぎて私は言葉が何もでなかった。
「あと今、春歌が私の心読めないのは、私が本音を全て口に出してるからだよ。」
「え。」
菜緒も心が?どうして?どうしても戸惑いが隠せない。
「ちょっと休憩がてら、あそこの公園のベンチで話そう。」
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