衝動戦士ガンダチ
かぎろ
最終決戦! ヴォルチオンガンダチ VS 〝修正者〟!!
「く……クソが……ッ」
マキンタ・オウィナリィは、
「かけたんだぞ……! ウンダスとフグリス・ヌーブラテスの技術力による、すべてをかけた一撃だったんだぞッ!」
【無駄である】
勃ち塞がるのは、巨大な……銀河の直径並みに巨大な、規格外すぎる人型兵器。
【滅びよ。おまえたちは存在してよい文明ではない。おまえたちのすべてを、黒塗り修正してくれる】
――――ウンダス文明とフグリス・ヌーブラテス文明、ふたつの文明は、発展しすぎた。
別々の星で生まれたそれぞれの文明は、異なる過程を辿りながらも宇宙進出を果たし、邂逅し、友好的な関係を結んだ。互いの技術を交換し、切磋琢磨し、人類史を大きく前進させた。
しかし、最新にして最終到達点とされた
〝修正者〟。
発展しすぎた文明を宇宙の安寧を乱す悪と断じ、滅ぼすためだけに存在する、神か、あるいはシステムのような何かであった。
「ッ……。こちらマキンタ。応答願う!」
「……こちらケケ。無事か、マキンタ」
「ケケ! インモータルガンダチは!?」
「……ダメだ。股間のキャノンを折られた。もう戦力には数えるな」
「クソ……! 他のみんなは!」
「コチラ、ダーヴェン。ウンブリエルガンダチ、戦闘不能ダ」
「こっちはイクノだよ! ごめーん、オーガドゥムガンダチ、もうだめかも~……」
「チッ……こちらフェイラ。アタシのイラマティガンダチも損傷が激しいぜ。……なあ。……勝てるのかよ、あんなの」
フェイラの、ぽつりとこぼした声に、通信内の全員が沈黙した。
ガンダチと〝修正者〟……その大きさの関係は、小惑星と銀河の関係である。そもそも物理的に敵う相手ではない。
しかも、部隊を壊滅的状況に追い込んだ〝修正者〟の力。いや、力というよりは、指を軽く振っただけであったのだが、それだけで宇宙空間は歪み、星系がひとつ消し飛んだ。
ウンダス文明とフグ・ヌー文明は、発展するなかで神の領域に到達したつもりでいた。
驕りだった。
人類は、神の手のひらの上で転がされる、哀れな塵であったのだ。
最初から、最後まで……
「……本当に、そうなのか?」
マキンタの呟きは、しかし脳内に響く〝修正者〟の声に遮られた。
【これよりおまえたちを〝修正〟する。〝去勢〟と言い換えてもよい。おまえたちは、卑猥になりすぎた。繁栄はここで終了である。しかし、安心せよ。おまえたちの犠牲で、宇宙の安寧は保たれる。すなわち、健全な世界が実現するのである】
「健全な世界……!?」
【そうだ。卑猥な言葉や汚らしい単語を使わない、健全な世界だ。もちろん、行為自体を禁止するわけではない。下品な言葉を使うことのみを、世界に不要なものとして取り除く】
「何だと……!? ■■■■や■■■■■という言葉が要らないっていうのか!?」
マキンタの叫び。しかし違和感に気づく。
「■■■……■■■■……! こ、これはッ! 直接的な単語が黒塗り修正されているッ!」
【健全な生命の営み。そこには、下品な言葉など不要である】
「ば……馬鹿な……!」
【おまえたちは、間違った繁栄をした。ならば滅ぼそう。感謝も、謝罪も要らぬ。何の感情も持たなくてよい。どうせおまえたちは、消えゆくのだから――――】
〝修正者〟がその巨腕を動かし、巨掌をかざす。
終わらせるつもりだ。
「何らかのエネルギー、〝修正者〟に集束していきます!」
「これは……銀河を破壊するどころではありません! この宇宙を〝修正〟してもなお止まらない、極大の……!」
「ぬぅ……! 聞こえるか、チーム・マキンタ! 奴は……ビッグバンを起こすつもりだ!」
基地から届く司令官の通信に、マキンタたちは瞠目する。
「ビッグバンだって!?」
「そうとしか考えられん! 奴はこの宇宙のなかで新たな宇宙を創世し、上書きをするつもりなのだッ!」
【滅びよ。滅びよ。滅びよ。滅びよ】
「終わりだな」
インモータルガンダチの搭乗者、ケケ・モージャーが自らの毛を撫でた。
「俺たちは終わりだ。まあ、今までよくやったよ。そうは思わないか? おまえサンたちよ」
「……ソウカモナ。私ノ、ウンブリエルモ……ヨク戦ッテクレタト思ウ」
「諦めるしか、ないんだね……」
「チッ……」
部隊の生き残り全員が、圧倒的な力に戦意を喪失……
「マカロニ」
……したかに思われた。
「マキンタ? どうした」
「オレはマカロニを見ると性的に興奮する。ちっちゃくて、ふにゅふにゅで、ショタのショタに似てるからだ」
「大丈夫?」
「いまのオレの言葉は黒塗り修正されたか?」
ケケたちが、はっとする。マキンタは続けた。
「いくら下品な言葉を修正しようと、他の言葉、他の対象に下品さを見出すだけだ。なあ修正者、聞いてるか?」
【滅びよ。滅びよ。滅び――――】
「おい修正者ッッ!! 図体だけのフニャ珍矛ッッ!! てめェに言ってるんだッッ!!」
【――――】
怪訝に思ったのか、修正者がエネルギーを増幅させるのを一旦、停止した。
【……何だ、いまのは。何故修正が機能しない】
「おまえたちがどれだけ修正しようと――――人の意志は消えない。人のなかでガン立つ大いなる魂は! 〝巨魂〟は、萎えないッッ!! ウオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」
マキンタの搭乗するヴォルチオンガンダチが、股間のビームキャノンを自らの手腕部で激しく擦り始めた!
「まさか……マキンタ! ビームキャノンを摩擦熱でオーバーヒートさせ、砲撃の威力を上げるつもりか!?」
「やめろ! テクノブレイクするぞッ!」
【無駄である。そのような矮小な砲身に何ができる】
「人の、欲望は! 矮小なんかじゃあないッッ!!」
それは――――
宇宙史上初めて観測された現象であった。
フグ・ヌー文明の開発した星間ビームキャノン。それは特殊な超合金をふんだんに使用することでビームの威力を高めている。しかし、その超合金の弱点は著しく熱膨張率が高いこと。高出力でビームを発射すると、その熱で
すなわち、玉金。
ウンダス文明とフグ・ヌー文明の出会いにより生まれた、最硬の物質であった。
「ハアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
ビームキャノンに加わる摩擦熱。
超合金が熱膨張していく。
しかし、玉鋼のおかげで壊れることはない。
それは宇宙史上初めて観測された現象――――
「マキンタ……! おまえってやつは! なんてでっけぇ男なんだよ……!」
「ヴォルチオンガンダチの玉金ビームキャノン、すごくおっきくなっていきますッ!」
「まさか! もう十倍以上の大きさにおっきくなっているというの!?」
ヴォルチオンガンダチの巨魂が立ち上がる。
しかし……
〝修正者〟からすれば、その程度、長い歴史のなかでも珍しく自分に刃向かってくるカス……珍カスに過ぎない。
【フン……。砲身が恒星レベルの長さになったとて、無意味である。銀河の巨大さを持つ我に届くものではない】
「そいつはどうかねえ、修正者サンよ」
ケケの声がした次の瞬間、ビームキャノンの膨張速度が更に上がった。
「スマナイナ、マキンタ。私ラシクモナク、諦メルトコロダッタ」
ダーヴェンが言うと同時に、砲身が更に膨れ上がる。
「マキンタの言うとおりだ! わたしたちの意志は消えないもんっ!」
「チッ! マキンタの野郎、成長しやがって! おまえが……ナンバーワンだ!」
イクノの声、フェイラの声とともに、玉金が熱を高めていく。
それだけではない。星々に住んでいた他の人々もまたガンダチに乗って駆けつけて――――ヴォルチオンガンダチのビームキャノンを刺激しているのだ!
【なに……】
それどころか、敵対していたはずの宇宙怪獣たちも集まって、ビームキャノンを体全体を使って擦り始める!
ビームキャノンの巨大化はとどまるところを知らず、その全長はついに1光年を超えた!
「オレは……オレたちすべての命は! 修正されても、また勃ち上がる!」
ヴォルチオンガンダチの臀部のバーニアがブーストし、〝修正者〟へ向けて突撃を開始するッ!
「ウンダス文明とフグリス・ヌーブラテス文明は何度でも勃興する! これがオレたちの答えだッ! ウオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!」
【フン。その程度の兵器で……】
ビームキャノン、全長69光年を突破。
【その、程度、で……】
全長0721光年を突破。全長4545光年を突破!
【ば……ばかな……!】
全長、191919光年を突破ッ!
それは銀河の直径に匹敵しているッ!
【ばかなッ! く、来るな……来るなァッ!!】
「先っちょだけェェェエエエ!!!!」
ジュッポオオオオオオオオオン!!!!!
人型兵器・修正者の股間に、ヴォルチオンガンダチのビームキャノンが突き刺さるッ!
【いきなり奥までェェェェエエエエエエ!!!!!】
「喰らえええッッ!!
――――放たれた。
修正者の
【ば、ば、ば、ばかなァッ! 我はこの宇宙を幾億年、幾兆年守り続けてきた! もっと見守り続けたいのに! これからも、幾年も……!】
「――――オレたちは、巣立つよ。下品だからこそ健全な世界へ……」
【い、いいい、幾年、幾年幾年、幾年幾年幾年幾年幾年幾年幾幾幾幾幾幾幾幾幾幾幾幾幾ゥゥゥゥゥウウウウッッッッ!!!!!!】
キュンキュンキュンキュンキュン――――――
超新星爆発、いやそれ以上の眩い光が宇宙に満ち――――
そして。
〝修正者〟は、果てて……跡形もなく消え去った。
誰かが、「や……!」と口火を切り……
すべての生命は、湧き立った。
「やったああああああああああああ!!!!!!!」
ケケが、嘆息して煙草を吸い始める。
ダーヴェンが、穏やかに口角を上げる。
イクノが、コクピットでぴょんぴょん跳んで頭をぶつける。
フェイラが、深く溜息をついてシートに身を沈ませる。
こうして、ひとつの戦いは終わりを迎えた。
人類の……否。
生命の、勝利とともに。
「あれ……?」
「イクノ、どうしたん?」
「マキンタは……どこ?」
〝ここは……〟
真っ白な空間で、マキンタ・オウィナリィは浮遊していた。
どちらが下で、どちらが上かわからない、謎の空間。
〝いや……オレの主砲の先が向いている方が、いつだって、上さ〟
〝ヒトよ。我を倒した者よ……〟
声がする。
修正者の声である。
〝なんだよ。オレを変な空間に招いたのはおまえか?〟
〝我は間もなく消える。その前に、ひとつ訊きたい〟
修正者は。
人間の女性のような姿をしていた。
〝下品なことは、良くないものではないのか?〟
〝ありのまま、楽しくいられる、それが良くないはずがあるかよ?〟
マキンタは、声を立てて笑った。
まるで友人に接するようだった。
修正者が、顔を歪める。
〝私も……そういうふうに生きられたならよかった〟
〝生きられるさ〟
〝えっ……?〟
〝今から言うことを復唱してみるだけでいい。『ショタのマカロニはむはむしたいお!』〟
修正者はくす、と笑う。
〝無理〟
〝あっそ〟
〝さよなら、ヒトよ。我を否定したのだ。幸福にならねば許さぬぞ?〟
それだけ言うと。
修正者は、塵となって消えていく。
そんな彼女に応えて、マキンタは胸をどんと叩いた。
〝ははっ。もろちんだぜ。おまえの分まで、生きてやる〟
その力強い言葉に、生命の持つ『希望』を見て取り……
消えながらも修正者は微笑む。
命はきっと、この先の無限の未来へと続いていく。
最期の瞬間、彼女の内腿を、涙がつう、と伝っていった――――
~完~
衝動戦士ガンダチ かぎろ @kagiro_
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