第15話 キャー♡

 ……中山道なかせんどうさんは『六号歴史塾』の生徒さんだったのだが、水戸街道先生の優しさと、秘められた真の強さに感銘を受けて剣の道に進み、今では先生の名代みょうだいを務める程の腕前になったと言う。


 しかし、ご本人は「女だてらに『段持ち』になるなど先生の名折れになりかねません」と有段者になることを固辞し、お仕事が休みの日や夜などは奥様を亡くされた先生の為に、お手伝いのボランティアをしているそうだ。


 今時、こんなに奥ゆかしい方がいらっしゃるのね(驚)


 私たちも中山道さんの前に正座して、丁寧にお辞儀をした。


 中山道さんは、もう一度三つ指をついた。


 ……そして……


 ……! 


 中山道さん!?


 な! なんと! 中山道さんが、おもむろにお着物を脱ぎ始めた!?


 キャー♡ ちょっと待って! ちょっと待って! お兄ちゃんはダメ! 見ちゃダメ〜っ!


 ……って、兄貴は平伏したままだ。


「……『鏡華かがみばな』は神事……。 下着のみを着用して披露するのが儀礼なんだ。 それに、かなり激しい動きをする為、お召物めしものが汗で絡み付くのを防ぐ意味もあるらしい」


 そうか、兄貴はそれを知ってるから頭を上げないのね! ちょっと見直した。


 中山道さんはお着物をたたんだのち、申し訳無さそうに「……さらしぬのを身に着けるご無礼をお許し下さい」とおっしゃった。


 と ん で も な い で す !


 私なんぞの為に、ここまでして下さっているのに、これ以上、何を望みましょう!


 ……それにしても……なんというスタイルの良さだ! 


 私のように、毎日のようにスイーツをミルクティーで流し込んで喜んでいる人間の体型とは、おおよそかけ離れている!


 ……その反面、かなりキツめにさらしを巻いているようだが、そのお胸の膨らみを押え込みきれていない! ……私の見立てでは、恐らく私(ギリC)の1.5倍以上かと……。


 ……私のような俗物がこんな下賤な事を考えていると、先生が神棚からラメ? が入ったような袋につつまれた棒状の物をうやうやしく取り出し、それを中山道さんに渡した。


 中から現れたのは、鈴が付いた紐を巻き付けた、2本の木製の刀だ。


 それを両手に握りしめた中山道さんが、もう一度座礼したあと、痺れる程の美声でこう宣言された!


各々おのおのがた! 不肖『中山道なかせんどう 冴子さえこ』! これより、水戸みなと流奥義『鏡華かがみばなつかまつります!」


 その場の空気が、一瞬にして浄化されたのを感じた!


 ……たかだかゲームの為に、なんだか凄いことになって来たなぁ(汗)

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