第11話 絶句

 先生は、私の竹刀しないの持ち方を一目ひとめ見ただけで、私がエンパス体質(本編第4章第6話『エンパス』をご参照下さい)であることを見抜いた。


 私は敵を斬った時、その痛みを自分の痛みのように感じて、知らず知らずのうちに躊躇してしまっていたんだ。


 そんな私に、先生は次のようなアドバイスを下さった。


「元来……つるぎは、天下万民のために魔を断ち、護国する神器じんぎ。 ……貴女あなたの使命は、対峙した相手に取り付く悪魔を滅し、悪しき呪縛から解放するために正義の剣を振るうこと! さあ、一刻も早く『敵』を差し上げなさい!」


 先生は、私が感じていた『剣』の『苦痛を与える』イメージを『人を助ける』イメージに変えて下さったんだ!


 先生……そして兄貴には感謝感謝です!


 私たちは先生と中山道なかせんどうさんに何度も何度もお礼をして帰宅した。


 早速VRゴーグルを装着してプレイ!


 ……結果は……


 兄貴でさえ超えられなかった『サーベルタイガー』の『HARD MODE』を難なくクリア出来るようになった!


 か、感動〜〜(´;ω;`)ブワッ


 これで大会当日まで猛練習すれば、もしかしたら……いや、ワンチャンeスポーツ大会で好成績を残せる……かも!



 ……翌日、意気揚々と出勤し、いつにも増して、張り切って仕事をしていると、事務長が血相を変えて検査室に飛び込んで来た!


「遥さん! ちょっ……」


『ちょっと』の『と』を言う前に、事務長は私の名札を握って引っ張り、そのまま院長室に駆け込んだ。


 ……院長室では、この前の面子……院長、看護部長、そして息を切らしている事務長が揃った。


 皆さん、重苦しい表情をしている。


 何!? 何があったの!?


「遥さん! 本当に申し訳ない!」……事務長が珍しく私に頭を下げた。 ……これは、只事ただごとでは無い。


「例のeスポーツ大会の件ですが……」


 ……まあ、私が院長室に呼ばれるのは、当然その件でしょうね……。


「……もう……だいぶ練習してくれてる……よね……?」


「はい。 だいぶコツも掴めましたし……それなりに……」


 院長と看護部長が無言で顔を見合わせている。


 ……事務長が更に続けて……


「当然『サーベルタイガー』の『サバイバルモード』で……練習しちゃってる……よね……?」


 この前、兄貴もそんな事言ってたなぁ(『本章第8話 不安』をご参照下さいっ!)


「はい、確か……」


 事務長がもう一度頭を下げて「本っ当に申し訳ない! 自分のミスだ! 実は大会で使用するモードが違ってたんだ!」と絞り出すような声で言った。


「……?」


「大会で使用するモードは『ビートモード』なんだ!」


 へぇ〜……そうなんだ……。


 で?


 看護部長が……


「そうよね、遥さん『ゲームを知らない』って言ってたもんね……何言ってるか判らないわよね。 ……事務長じむちょ、例の動画を観てもらった方が良いわよ」


「そ、そうですね。 では!」


 ……例のプロジェクターに映像が映し出された。


 ……ん? 


 いつもと背景が違う!?


 このゲームのヒロイン『ファラウェイ』が登場し、こちらに向かってウインクした。 ……コスチュームは同じだが、表情や足取りが全く違う!


 ……しかも、持っているのが剣じゃ無い!


 私が使っている『ネオンサーベル』とは明らかに異なる、カラフルなスティックを持っている。


 しかも両手!?


 次いでファラウェイの前に、カラフルなボーリングのレーン? みたいな台が迫り上がり、そのはしには、いつも怖い顔で剣を振り回して襲い掛かってくる敵のボス『テンタクル』が、派手な衣装を身に着け、陽気に踊っている。


 あんたはパリピかっ!?


 軽快な音楽が流れ出し、ボスが八本の腕を使って、超高速でスライムを投げ始めた!


『危ない! けて!』


 ……と念じつつ固唾を飲んで見守っていると、ファラウェイが音楽に合わせてステップを踏み出した。


 そして華麗に両手を広げると、スティックの先端が輝いて、某ガンダ○シリーズに出てくるビームの剣に変わり、目にも止まらぬ速さでスライムを斬り、切られたスライムは次々に消滅した。


 ……時折、スライムに混じってゴブリンが投げられるが、その時はビーム剣が瞬時にガンモード化? して撃ち落とされた。



 ……曲が終わると同時に点数が表示され、ファラウェイが満面の笑みで飛び跳ねた。 ……か、可愛い♡


 凄かったあ〜〜! まさに神業かみわざ! 見応え充分だ〜!



 ……ん? ……!


 ……ま、まさか……!?


「本番は……こっちだったんだよね……」


 …… 絶 句 !

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