第9話 微かな光

 これは一体、どういう事……?


『チュートリアル』は初歩の初歩、レベルがどうこう以前で、誰でもクリア出来るそうだ。 それすらクリア出来ない私は、人並み以下って事じゃん(泣)


 ……こんな状態では優勝どころか予選落ちしちゃう! 予選があるかどうかはわからないけど!


「……やっぱり私、ゲームはダメだわ……これ、明日返してくる……」


 私は半ベソをかきながらゴーグルを片付け始めた。


 ……それまでバカ笑いしていた兄貴の表情がコロッと変った。


真優まゆ! ちょっと待て! それは待て!」


「返したく無いからって止めないで! 私がこれを貰ったのは『人事課長へのハナムケ』の為なんだから、それが出来ない私は返すしか無いじゃん!」


「違う違う! 正直『返したく無い』って言ったら嘘になるけど、それは抜きにしても、お前の太刀筋たちすじは悪くない。 剣道三段の俺が言うんだから間違いない!」


 ……確かに兄貴は高校生まで剣道の道場に通っていて段持ちだ。 


「ほんと? クスンッ😢 ……それ……信じて良いの……?」……私の頬に涙が伝った。


「本当だよ! ……俺の見立てでは、お前の剣は良くも悪くも『見世物』なんだ」


「見世物……?」


「そう。 『区民劇』ならそれで充分だが、VRゲームは言い方を変えれば『実戦』……しかも『真剣試合』と同じだからな」


 ……!


 確かに……一理あるかも!


 舞台のお稽古では、決まったかたで剣と剣を安全に合わせたり、敵役かたきやくとアイコンタクトをしたりしながら、観客に迫力ある『見せ方』を研究し、それを練習している。  『速さ』より『演技力』が重視されるんだ。


 しかしVRゲームは、どれだけ本物リアルに近付けるかを追求している。


 つまり『殺陣たて』と『VR』は似て非なるものなんだ。


 その後、兄貴が『HARD MODE』での闘いを見せてくれた。


 もうちょっとのところで惜敗してしまったが『ミラーリング』で観た映像は、我が兄とは思えないくらいに見事な腕前だった!


 この際、背に腹は代えられない! 私は兄に頭を下げて『剣道』を教えて欲しい……と懇願した!


 ……が……


(※ここから暫く小芝居が続きます。 ご注意下さい)


 兄はゆっくりとかぶりを横に振り、こう言った……


「……俺の力量では、いくら教えたとてお前を俺以上のレベルにしてやる事は出来ぬ。 ……ましてや優勝まで導く事は、この短期間では不可能だ」


「そ……そんな……お兄様……!」……私はその場に泣き崩れた。


 そんな私に向って兄は……


「案ずるな。 お前を勝利に導く事が可能な人物が一人だける! 怖がりだった俺を剣道三段にまで育てあげた『あの方』なら、必ずや……!」


「……! そのおかたは……?」


「その人の名は『水戸街道みとかいどう 茶三郎ちゃさぶろう』! 俺の……師匠だ!」


 微かな希望の光が見えた瞬間だった。


 ……それにしても『水戸街道みとかいどう 茶三郎ちゃさぶろう』!? 本名なのかね? ゴージャスというかユーモラスというか…… 少なくとも、一度聞いたら忘れられない名前だ。


真一しんいち〜、お母さんもう眠いから早くご飯食べて〜〜」


「やべっ、忘れてた! は〜い!」


 シリアスムードから、一気にホームドラマみたいになっちゃった(笑)


 今日は私も疲れた……。 兄貴には、後日その道路交通情報みたいな名前の先生を紹介してもらおう。


「私も先に寝るね! お休み〜」


「お休み〜」


 台所だいどこを出る時、兄の小さな呟きが聞こえた。


「ん!? なんか……俺のカニクリームコロッケ少なくね?」


 あっ! ……てへっ😋

 (兄の呟きと私の『てへっ』の理由は……前話をご参照下さい🙇🏻)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る