第17話 ピットホール

 山名先生から、メガコードのシナリオが提示された。


はるかさんは、病棟に心電図ECGりに来ました。 すると目的の患者さんは明らかに状態が悪いです。 では、初めて下さい!」


 先生が『パンッ』っと手を叩くと同時にメガコードが開始された。


 一瞬『心電図ECGを録りに来てるんだから、記録してその結果を提出した方が良いかな?』という考えが浮かんだが、以前書いた通り2分以内に心肺蘇生を始める必要がある。(本編『特別編 真優の備忘録』をご参照下さい!) 今は、意識・呼吸・脈拍の確認が最優先だ!


 先ず『患者さん』の肩を軽く叩きながら『〜さん!? 聞こえますか!?』と声がけをする。 反応は無い。 ダミー人形だから反応が無いのは当然だが、それは言いっこナシだ。


「意識無し!」


 呼吸を見ながら頚動脈で脈拍を測る。


「呼吸無し、脈拍無し!」


 ナースコールを押すジェスチャーをして「コードブルー、コードブルー(患者さんの容態が急変したという意味。 直ちに全員集合という意味も含む)除細動器をお願いします!」……と言い、教科書通りの心臓マッサージとBVMバック・バルブ・マスクによる人工呼吸を開始した。


 先ず、この時点で私のCPR(心肺蘇生)手技が評価される。 これに関しては、深田先輩の♡指導のおかげで問題なくおこなえた。


 山名先生の指示タイミングに合わせ、看護師A役のはっしーが「除細動器、持ってきました!」と言いながら電子レンジ位の大きさの機械を台車で転がしてきた。


 ……現実的には『AED』という装置が心電図判読から必要な電気ショックのタイミングまで全自動でおこなってくれるので便利だが、ICLS講習ではあらゆる蘇生用の装置を使えるようにしなくてはならない。 その為、このような『旧式装置』も学習する必要があるんだ。


「心マ、替わります!」と、別の生徒さんが言ってくれた。


「はい! 次のタイミングで一度モニター確認しますので、その後から交代をお願いします。 橋本さん、電極装着を!」


 はっしーが手早く電極をダミー人形の所定の部分に取り付け「電極装着完了しました」と報告してくれた。


「……27、28、29、30!(心臓マッサージは、1分間に100回位のリズムで30回行い、人工呼吸を2回挟む。 因みに人工呼吸は必須ではない) CPRを一時中断し、モニターを確認します。 皆さん離れて下さい!」


 モニター上、波形は確認出来ない。 心停止エイシストールと呼ばれる状態だ。


『心停止』では電気ショックは意味が無い。 ……いや、意味が無いどころか生体や心筋に傷害が発生し『百害あって一利なし』となる為、禁忌とされている。


心停止エイシストールです。 心停止のアルゴリズムを開始します! CPR再開して下さい! アドレナリンの準備をお願いします!」


『パンッ!』




 …………えっ?




 山名先生が手を叩き、メガコードが中断された……。 私の手技や判断に、何か誤りピットホールが生じたんだ。


 う……嘘で……しょ?


 はっしーも不安げな面持ちで、私と山名先生を交互に見ている。


 ……どこにも……間違いは無いはず……なのに……。


 私は下唇を噛んで、その場に立ちすくんだ。

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