第16話 メガコード

 午後の部は、やや専門的な、器具を使った気管挿管の実習から始まった。 通常、ドクターが行う行為だが、ICLSではこれも必修科目だ。……こちらも深田先輩のレクチャーのお陰で、そつなくこなす事が出来た♪


 ……そして……


 いよいよその時が訪れた。


『本日のまとめ』となる『メガコード』の時間だ。


『メガコード』とは、ICLSディレクターから提示される『心肺停止のシナリオ』を元に、心肺停止者の発見から蘇生に至るまでを受講生がリーダーとなって指揮する、シミュレーションだ。


 ……実際の臨床では様々な問題が複合して発生し、心停止後の状況は刻々と変化する。 それに応じた適切な処置をしないと、却って身体に悪影響を及ぼし、予後が悪くなってしまう事もあり得るんだ。 そのため、今日習った知識と技量を総動員した上で心肺蘇生させる必要がある。


 ……どんなお題が出されるかは、さすがの深田先輩も予想出来ないという、本日最後にして最大の難関だ。


 ……ここで、実習開始の前にICLSディレクターの桜井先生が仰った言葉が、改めて思い返された。


「良い医者や良い看護師は、すべからく『やらかし』ちゃった人たちです。 ドラマのセリフで『私、失敗しないので』ってのがあるけど、ありゃ嘘!(会場爆笑)やらかさなきゃ一人前にはなれません。 ……ただ臨床で本当にやらかしちゃうのは可能な限り避けたいよね。 だから今日は皆さん、このダミー人形を使って、バシバシやらかして下さい! それが良い医療従事者になる近道です」


 ここまで来たら、やるしかない!


 ……武者震いしていると、はっしーが小声で「何? まゆ、トイレ行きたいの?」と聞いてきた。


「違う違う! 武者震い!」


「ぷっ!」……はっしーが吹き出したので思わず釣られて笑ってしまったのが運のツキだった(泣)


「はい! 『中央』のはるかさん! 今、自信たっぷりの良〜い笑顔してたね〜〜〜! じゃあ早速『チームリーダー』! 宜しくね〜!」


 ICLSコーディネーターの山名先生が、小学校の先生宜しく、人差し指で私に向かっておいでおいでしているじゃありませんか!


 ふぇ〜〜〜〜ん! 誤解ですぅ〜〜(悲)

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