第9話 アーム・レスリング

「……そんな訳で、はるかにとっては、とんだ『とばっちり』だったかも知れないけど『ICLS』に参加するなら、『インストラクター』になるくらいの覚悟で頑張って欲しいんだ!」


 ……落ち着いて考えてみると、深田先輩が言うように、私にとってはとばっちり以外の何物でもないのだが、深田先輩のあの傷と壮絶な過去を聴かされた直後では何も言えず、ただひたすらに頑張るしか選択肢は無かった。


「よし、じゃあず、遥の現状を調べさせてくれ」


 深田先輩が身をかがめ、私のむきだしのすねを両手でつつみ込んだ。


 やぁだ、はずい♡


「そのまま足に力を入れてみ」


 足……特に脛にグッと力を込めると、筋肉が隆起したのを自覚した。


「お~! すげー! 何か運動やってる!?」と、深田先輩が更に両手に力を加えながら聴いてきた。


「は……はい……! ……運動って程では……無い……ですが……毎日……自転車……通勤を……!」と、りきみながら答えた。


「あ~! そうだったね! 失念失念! 遥は自転車通勤だったね」


「はっ! ……はいっ!」


「あ、ごめん! もう力抜いて良いよ。 ありがと」


 ふぅ~~っ 汗かいた……。


 深田先輩が独り言のように……


「持久力は、意外とありそうね。 よしよし」と言いながら、今度は地面に膝を付き、ベンチに肘を置いて「次は腕ね」と言って、半身に構えた。


 うでずもう? ってやつ? 見た事はあるが、やるのは初めてだ。


 ちょっぴりワクワクして、張り切ってストレッチを始めると……


「待って待って! これは腕相撲アームレスリングじゃないの。 あたしが少しずつ力を加えるから、それを片手で押し返してみて!」……と言われた。


 ……深田先輩の古傷を見せられた後なので気が引けたが、私は腕の力はあまり無いので、折っちゃう事はないでしょ。


 私も肘を付いて、深田先輩の手を握り、少しずつ力を加えた。


 ……!


 深田先輩の腕の力……スゴい! 私が真っ赤になって、いくら力を加えても微動だにしない!


 これじゃ、私の腕が折れちゃうかも(泣)


「深田さん! ダメ! 降参です~(悲)」……私は呆気なく敗退した。


 深田先輩が腕を離し、膝に付いた砂を払いながら立ち上がり……


「遥は、腕力の特訓が必要かもね」と言った。


 思わず……


「深田さん、なんでこんなに腕の力が強いんですか?」と聴くと……


 深田先輩は、寂しそうな笑顔で、こう言った……。


「……ICLSインストラクターになりたかったから……」


 そう……先輩は、必死でリハビリしていたんだ。


『たくさんの命を救う』という夢を叶える為に……!

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