第6話 鋼《はがね》

「さて、改めて聴こう。 『ICLS』で一番必要なものは何だ?」


「はい! 『心臓マッサージ』です」


「バカ者〜!」


 動きだけはヤケにオーバーな深田先輩の容赦平手打ちが私の頬に『ぺちっ』と当たった。


 何だか、スポ根ドラマっぽくて楽しくなって来ていた。


 私もノリノリで、おしゅうとめさんにはたかれ、台所で泣き崩れた新妻のように、その場でとんびすわりして、潤んだ目で深田先輩を見上げた。


「……確かにお前が言った『AED』も『人工呼吸』も『心臓マッサージ』も『ICLS』には不可欠だ! 間違ってたわけじゃねぇ!」


 え〜!? なんだよ! 合ってたんじゃん!


「ただ…それは、あたしが望んでいた答えじゃ無い。 ……あたしが欲しかったのは……これよ! これ!」


 と言いながら、深田先輩はお世辞にも大きいとは言えない自分の胸を叩いた。


 なるほど! それなら納得!…… ギリ『C』の私でさえ、もう少し欲しいんだから『ギリギリB……かな?』くらいの先輩は、もっと欲しいでしょうね。


 ……深田先輩は、私の心の声が伝わったのか


「言っとくけど乳房マンマじゃ無いわよ! 心! メンタル! ハートよっ!」


 あ〜、そっち!


「例え目の前で倒れているのが『彼氏を略奪した女』だろうが『親のかたき』だろうが『必ず救ける』という『はがねの意志』を持ち続ける! それこそが、どんなに長く辛い『ICLS』でも成し遂げる原動力になり得るんだよ!」


 ……!


 私は、少しふざけていた自分が恥ずかしくなった。 そうか……親のかたきでさえ全力で救う……という『鋼の意志』! ……そんな聖人君子みたいな精神を、私が持てるだろうか……。



 深田先輩は腰をかがめ、私の顎を指で引き上げ……


「遥! あたしはね……お前なら一廉ひとかどの『ICLSインストラクター』になれると信じている」


 ……! 


 ……ひとかどの、あいしーえるえすいんすとらくたぁ〜!?


 何か、また、新たな言葉が出てきた〜!

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