第5話 公園

 深田先輩の吹く『ピッピッ』という笛の音に合わせて移動する事数分……病院裏の公園に到着した。


 とても小さな公園で、人が居なかったのは幸いだ。


「よーし、はるか! 『ICLS』で一番必要なものは何だぁ?」


 深田先輩……誰かに似てると思ったら、こういう口調でジャージを着ていると『ご○せん』ってドラマの主人公そっくりだ。


 ……さて『ICLS』とは、心肺停止状態の人に遭遇した時に、正しく蘇生をおこなう為の教育訓練だ……と、はっしーに教えて貰った。


「はい! 『正しい蘇生技術』です」


「ほぉ〜……では『正しい蘇生技術』に必要なものは何だ?」


「はい! 『AED』の正しい使い方です」 


「バカ者〜!」


 深田先輩が、私の顔面目掛けて強烈なパンチを繰り出す……真似をした(笑)


「今の『AED』は専門知識が無くても使える様になってる!」


『AED』……『自動体外式除細動器』の略で、文字通りで心臓のく為の装置だ。


 詳しい説明は省くが(興味がお有りの方は、拙作『臨床検査技師の「はるか」です!』第9章 心室頻拍ショートラン第4話 VF……に、詳しい説明が御座います ← ちゃっかり宣伝)確かに深田先輩が言った通り『AED』は初めての方でも安心して使えるように、懇切丁寧にアナウンスが流れ、その通りに操作すれば心臓を正常に戻せる優れものだ。 


「例えば、ここが山奥のキャンプ場で、私が、ここで倒れていたとしたら、お前はどうする?」……と言って、深田先輩は、近くのベンチに倒れ込んだ。


 実は『ICLS』のテキストを注文したが、だ手元に無いので、どうしたら良いかさっぱり判らない。


 う〜〜〜〜〜ん……


 ……! そうだ!


 確か……『人工呼吸』!


 ……『マウス トゥ マウス』? とやらを学校で習った記憶があった。


『マウス・トゥ・マウス法』……呼吸が止まっている人の気道を確保したあと、肺に直接空気を送り込んで強制的に呼吸させる方法だ。


 ……やり方は単純明快……相手の口にこちらの口を付け、強く息を吹き込むだけだ。


 が!


 これって、ある意味……『キス』じゃん!


 ……ここは、山奥のキャンプ場。 深田先輩は意識不明の重態! 


 わ、私がしないと、深田先輩が死んじゃう!


 ……ふっ……


 ……仕方が無い。 現実には、こんな病院裏の小さな公園で……しかも、女性の深田先輩に、私の『ファースト・キス』を捧げる事になろうとは……


 ……まあ……先輩なら……良いよ♡


 ドキドキする胸を抑えつつ、深田先輩を仰向けに寝かせ、その唇に『マウス トゥ マウス』を……


『バカ者』


 ……私の唇が先輩の唇に到達する前に、今度は頭を『コツン』と小突かれた。


 え〜? 私、間違えた?


「最近は感染対策的にも倫理的にも、じかに行う『マウス・トゥ・マウス法』は推奨されていないんだ。 ……もし救命器具の無い場所で心肺停止の患者がいたら、何よりも『心マ』……『心臓マッサージ』を優先して」


「はぁ〜い……」


 ……覚悟を決めたのに、ファースト・キス出来なかったのがちょっぴり不満な私だった。 ← お年頃♡

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