第3話 プレイ

 翌日、私は残り当番だったので、定時になってもそのまま仕事を続けていたのだが……


 検査室のドアが勢い良く開き、びっくりしてそちらに目を向けると……


 え! えぇ〜〜!?


 いつの間にか深田先輩が、部活の顧問宜しくジャージの上下を身に着けていて、2度びっくり!


 そして、ピカピカのホイッスルを咥えて、短く『ピッ』と鳴らしたので3度びっくり!


 ……きっとこの為にわざわざ買って来てくれたのであろう……。


 深田先輩はいつもの倍以上の声量で……


「さっ! 時間、時間! 着替えて〜!」

 と私を促した。


 ……やっぱり、本当に特訓するのかぁ……(泣)


「でも……今日は残り当番なので……」

 と、ささやかな抵抗を試みたが、五木技師長が……


「俺が残るから、遥さんは特訓して来て! ……いやあ〜、あんなに活き活きとした深田を見るのは初めてだよ。 ……明日の仕事に差し障らない程度に頑張ってな! 若人わこうどよ!」


 と言って、みやこ先輩と共に挙手の敬礼をした。


「は……はあ……。 それではお言葉に甘えて……」←誤用


 仕方なく更衣室に行き、家のタンスの隅でおしぼりの如く縮こまっていた高校時代のTシャツとハーフパンツを身に着けた。


 ……実は昨日、試しに着てみたら、少しキツいが、着られなくはないので、そのまま持ってきたんだ。


 ……?


 ふとポケットに手を入れると……


 ……!


 鉢巻が丸まって入ったままだったよ。


「遥さん! ど〜したの? その格好! 運動会!?」

 と、2階病棟のヘルパー『佐和山さん』が目を丸くして言った。 他にも数名の方々が同じように目を丸くしていた。


 ……私が事情を説明すると


「素晴らしい! 頑張ってね!」

 と言って拍手してくれたが、正直『あいしーえるえす』の事をだ何も知らないので、只々ただただ苦笑いを返すしか無かった。


 ……その姿で検査室に戻ろうとするが、すれ違う人たちに同じ質問をされ、同じ説明を返す……を繰り返し、亀さんより遅い歩みになってしまった。


 検査室の前では深田先輩が、待ちかねた様子で、腕を組んで仁王立ちしていた。


「遅い! 遅れを取り戻すため、裏の公園まで早足はやあ〜し、はじめ!」


『ピッピッ! ピッピッ』


 ……平時に廊下を走ってはいけないので、深田先輩の笛の音に合わせ、競歩? の要領で進んだ。


 ……これ……何かのプレイ!?



 ……ところで……


 ここで、賢明な読者の方は『はっしー』ことレントゲンの橋本が居ない事にお気付きになったでしょうか?


 ……更に賢明な読者の方は、その理由をご存知でしょう。


 ……そう……彼女は未だ『放射線技術専門学校夜間部』の学生なので、今の時間は登校しているのです!


 嗚呼! 周りの視線が痛い(恥)

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