第7話『早く言ってよ〜!』

 空腹なのか、人間に慣れているのか………「みゅうみゅう」鳴きながら、あどけない顔で私たちを見上げている仔猫のヒゲと眉毛は、根元近くから切断されていた。


 ご存知の方も多いと思うが、野生動物のヒゲは重要な感覚器で、これを失うと、自分が通れる幅かどうかすら判断できず、その場に挟まったままになってしまう事もあり得る。


 ……恐らくこの仔猫は、人間に飼われていた猫から産まれ、育てきれなくなった飼い主が、帰巣本能で帰って来ないように……と、ヒゲを切って、病院の近くに遺棄されてしまったんだろう。


「……これは、誰かが保護しないとダメだな」……と、下村さんが言った。


 ……確かに、このまま何処どこかに逃してしまったら、このヒゲを切った人間と同じ所業になってしまう。 


「遥さん、猫好きみたいだけど飼えないの?」


「ごめんなさい……私、猫アレルギーなんです……」


「え〜! 大丈夫!? 早く言ってよ〜」

と、下村さんが申し訳なさそうに言った。


 ……確かに、その事を伝える間も無く、猫ちゃん救出要員に組み込まれてしまったんだった。


「それで、メガネと手袋なのかあ〜!」

 と、下村さんは合点がいったようだ。


「下村さんは、いかがですか?」


「……うちは団地だから飼えないんだよ」


 ……そうか……。


「とにかく、誰か保護者を見付けないとですね!」


「そうだね! じゃあ俺、後で色々あたってみるよ」


 ……ふと時計を見ると、もうすぐ昼休みの時間だった。


「では私も、検査の人とか知り合いに聞いてみますね!」


 仔猫は、まだ「みゅう、みゅう」……と可愛い声で鳴いていた……。


 私は後ろ髪を引かれながら、検査室に向った。

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