第6話 悪魔の所業

 さて、本当なら、このまま自然の状態で放置してあげるのが猫ちゃんの為なんだろうが、私たちが懸念しているのは、また誰かの車に入り込んでしまう事だ。


 ハマノリネンサプライのドライバーさんはここの人たちが必死に猫ちゃんを保護しようとしていたのを知っていたので、鳴き声がした時点で直ぐに引き返してくれたが、全く知らない人が、突然『にゃ〜にゃ〜』と聞こえたらびっくりして注意が逸れ、危険な目に合ってしまうかも知れない。


 それを考えると、ここで何とか保護する他に道は無いんだ。


 下村さんが

「ふむ……仕方ない。 イチかバチか、強行策に打って出よう!」

 と言った。


『強行策』……その言葉に、私はゴクリと息を飲んだ! ←大袈裟!


 ……そう……それは……


 魚取り網の持ち手を物置の下に突っ込んで、掻き出す方法……だ! ←単純



 私は引っ掻かれても良いように、手袋と花粉用メガネを装着した。


 準備完了! いつでもどうぞ!


「じゃあ、いくよぉ〜」


「はぁ〜い」


 そぉ〜れっ! ……っと掻き出すと、一回目で猫ちゃんが出て来た!


 私は素早く猫ちゃんを両手で包み込み、ダンボールに入れようとしたが、猫ちゃんの爪が手袋に引っ掛かってしまった!



 下村さんが手慣れた様子で、猫ちゃんを私の手から外し、ダンボールに入れてくれた。


 素早く簡易的な蓋をして……


 捕獲作戦、終了〜!


 やったあ〜!


「いやあ! 遥さん、ありがとう!」


「いえいえ! 下村さんのおかげです〜!」


 

 ……猫ちゃんの捕獲が成功すれば、私は検査室に戻らなければならない。


 別れの時が近付いていた…… ←大袈裟


 その前に、もう一度猫ちゃんの顔だけ見たい!


「……ちょっと覗いても良いですか?」


「ど~ぞ、いくらでも!」


 わ〜い!


「にゃんこ〜」


 ……覗き込むと、こちらを見て「みゃー、みゃー」鳴いている……か〜わいい〜


 ……!


 こ、これ……


 私は、この仔猫の顔に……自然界では絶対に有り得ない、忌むべき『悪魔の所業』の痕跡を発見してしまった。


 なんて……非道ひどい事を!


 私は口を押さえ、固まってしまった……


 私の変化が尋常では無かったので


「どうした?」


 と下村さんが横から覗き込んだ。


 そして、下村さんも見てしまったんだ……


 ……仔猫のヒゲが、ハサミで切られているのを……。

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