第4話『花粉症』

「ただいまっ!」


「真優! どうしたの? こんな時間に!」

雨なので、洗濯物を部屋干ししていた母が、目を丸くして言った。


 私は慌てていたので理由の説明もせず……


「うちに『取り網』ってあったよね?」

と息を切らしながら母に聴いた。


「『取り網』? ……『虫取り網』の事?」


 う~ん……虫取り網じゃ、ちょっと小さいかなあ……?


「……んとね……『魚を捕る網』なんてあったっけ?」


「そんなのないわよ! 漁師じゃないんだから」


 そりゃそうです。 『投網』を必要としている訳ではありません。


「長い棒が付いた網で、少し大きめのがるの」


「それなら何本かあるわよ」

と言いながら、母が物置を開けてくれた。


 物置の壁に、何種類かの網が立てかけてある。


 その中に、網目は粗いが丈夫そうな『魚取り網』があった! これよ~! これこれ! 


「借りて良い?」

と母に聴くと


「……全然使ってないから良いけど……何に使うの?」

と、母がいぶかしげな声を出した。


 私が事情を説明すると

「大丈夫? 猫に触ると、瞼がいつも腫れてたじゃない!」

と心配してくれた。


「でも、今は非常事態なのよ。 気を付けるから大丈夫!」


 ……私が急いで自転車の前籠に網と手袋を乗せ、再び引き返そうとしていたら、母が『花粉症用メガネ』を持って来てくれた。


 我が家は、私以外全員が花粉症で、それこそスギ花粉の時期になると、皆で目を真っ赤にして、くしゃみを連発している。 マスクと、このメガネは、皆の必需品だ。 


 昔は私だけ目を真っ赤にしたり、喘息で『ぜぇぜぇ』と苦しい呼吸をしていたのに、今となっては花粉のピーク時、私だけがケロっとしてる……なんて……皮肉というか何と言うか……。


 いずれにしても、今は花粉症の時期ではないので誰も使っていない。


 私は母に感謝しつつ『花粉用メガネ』も前籠に入れ、降り続く小雨の中、再び病院に向かってペダルを漕いだ。

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