第2話 リネンサプライ

 下村さんにかかった電話は『ハマノリネンサプライ』さん……病院で使うタオルやシーツ、更に白衣まで取り扱うクリーニング業者さんだった。


「エンジンルームから、仔猫の声がするんだって。 町野さんとこの猫じゃないか……って。 戻って来てくれるそうだ」


 ええ! 大丈夫!?


「私、良く判らないですけど、エンジンルームって……めちゃくちゃ危険じゃないですか?」……私は泣きそうな顔で下村さんに聴いた。


「……遥さん『エンジンルーム』って、ミキサーみたいになってる……って思って無い?」


 えっ? 違うの? エンジンってガソリンふかして高速回転してるんでしょ!?


「ははは……確かにファンベルトとか回転してる部分はあるけど、遥さんが考えてる程じゃ無いよ」


 そうなんだ。 ……ちょっと安心。


 ……じゃあ……そろそろ……


「さあ、皆さんそろそろ戻って〜!」


 工藤看護部長だ。 ……看護学生さんを迎えに来たんだ。


「じゃあ下村さん、遥さん……猫ちゃんはお願いね」


 え〜? ち、ちょっと待って! 何故なぜに!?


「今日は学生さん、大事な臨床実習があるのよ! それに、雨に濡れて風邪でもひかせたら、ご両親になんて言ってお詫びしたら良いか……」……と言って看護部長は泣き真似をした。


 確かにこの場で完全装備レインコートなのは私と下村さんだけだけれども! 私は偶然通りかかっただけで、そもそもネコ皮屑ひせつアレルギーがあるから、猫はちょっと……とか言う間も無く、学生さんたちが「遥さん! 有難う御座います!」 「遥さん! 恩に着ます!」……と、口々に私をてたえつつ、一人……また一人と院内に消えていった……。


「遥さん、助かる〜! 手駒は一人でも多い方か良いからね!」 


 ……と、下村さんもノリノリで言った!


 …………。


 私……なんでこうなるの!?

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