第18話『丸焼き』

 ……私が、手作り絵本サークル『タロウとハナコ』に入ってから、鈴森さんは以前と違い、逃げ回るような素振りが無くなった。


「……真優まゆは、意外にオトコを手玉に取る女かもね〜」……と、はっしーが『うめ酎ハイ』の梅干しを、お箸で細断しながら言った。


 あらま! なんて人聞きの悪い事を!


 ……今日は、はっしーの学校(この当時、はっしーはまだ放射線レントゲン技師専門学校生)が休講になったので、駅前の居酒屋さんに来たのだ。


 ……実は、はっしーには、私が鈴森さんの紹介で『手作り絵本サークル』に入ったことを伝えていた。 その直後から、鈴森さんのオドオドした態度が鳴りを潜め、落ち着いた大人の『風格』? が出てきたので、はっしーが驚いていた。


「違う違う! 私がどうこうじゃ無くて、鈴森さんは今まで、自分に自信が持てなかったの。 ……凄い才能のあるメンバーが鈴森さんを尊敬して『師匠』と慕ってるから、自信を持ったんだと思う」


「へえ〜」


 ……ん? はっしーの視線が痛い。


「な……何?」


「いや……あんたも変わったね……」


 ……? 


「……はっしーも食べな! 見た目と違うんだから! ささ、遠慮は要らぬ!」


「……いえ……私は遠慮しておきます……」


↑け、敬語!?


「……せっかくあげるって言ってるのに〜」


 ……私は、この前サークルの人たちと行った『一杯飲み屋』さんのメニュー『スズメの丸焼き』を気に入り、好物の仲間に加えたんだ。 見た目はちょっとグロいけど、頭からダイナミックにバリバリ齧ると、めちゃくちゃ美味しいのよ〜!


「……私、他人の嗜好を、とやかく言うつもりは一切無いけど……素面しらふで喰える真優の『食い意地』には脱帽するわ〜」……と言いながら、はっしーはチキンナゲットにバーベキューソースをちょっとつけてお上品に食べた。


 ……ま、随分可愛い物をお召し上がりですこと!


「烏龍茶おかわりするけど、はっしーはどうする?」……と私が聴くと「……わたくし、カルアミルクとピザもち〜」……あ……はっしーが女子アピールしてる……


「すみませ〜ん、烏龍茶と〜、カルアミルクと〜、ピザもちと〜、スズメの丸焼きをお願いしま〜す」



 さて……鈴森さんの恋はどうなったか……


 結論から言うと……


 ……安西さんとは結ばれなかった。 


 安西さんは満更まんざらでは無かったようだが、鈴森さんの方が……


 知人のご紹介で、旦那様に先立たれた奥様と結婚した!


 ……私もサークル仲間と、披露宴に参加させて戴いたが、鈴森さんは、奥様の連れ子さんお二人のお父さんになったんだ。 まさに、絵に描いたような幸せそうなファミリーの図だった。


 ……披露宴の帰り、安西さんが……


「私も早く師匠みたいな素敵な男性に巡り合いたいな〜」……と言ったのが印象的だった。


 鈴森さん、おめでとうございます!


 末永くお幸せに〜!

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