第15話 歴史書?

 ここで、いよいよ鈴森さんの絵本を拝見させて頂く事になった。


 ……表紙には、漢文? と、昔の中国の偉そげな人の肖像画? が描かれている。 『歴史書』みたいだ。


 本を開くと……


 ……う〜ん……正直、難し過ぎて……良く判らない……。



 ……わたしは率直に……「……これ……『絵本』ですか?」……と鈴森さんに聴いたが、例によって、目も合わせずにフリーズしている。


 ……さ、困ったぞ……。


 ……見兼みかねたもう一人の男性『秋山さん』が……「これが『手作り絵本』の素晴すんばらしいところなんだ。 鈴森さんの『絵本』は……『絽國ろこく興衰譚こうすいたん』……架空の『中華王朝』の物語だよ」……と教えてくれた。


 ……!?


 ……え? うそでしょ!?


 これが……架空〜?


 ……これ……歴史書のコピーじゃ無いの!?


 ち、緻密過ぎるよ!


 ……目を凝らして良〜〜く見ると……


 ホントだ! ちゃんと筆圧の凹凸がある!


 丸ペンと筆を使って描いているようだが、このざらついた感じの色は……何処かで見たことがあるけど……う〜ん……判らない。

 

「これ……絵の具は何を使って描かれたんですか?」


「……こ、これは……醤油……とか、豆板醤とうばんじゃん……とか……使ってます……」


 え? そんなの使って大丈夫なの?


「誰かが冗談で『鈴森さんの絵本は非常食になる』って言ってたね〜」……と、代表の大村さんが言ったので、場が笑いに包まれた。


 ……鈴森さんは、まるで茹でダコのように真っ赤っ赤っ赤になっている! ……この人……血圧、大丈夫かな!?


「真面目な話、色を塗った上から『定着スプレー』を吹きかけて固定してあるから食べられないんだけどね」……と秋山さんが教えてくれた。


「……私、小さい子供たちが喜ぶ絵本を描きたくて参加させて頂いたんですが、鈴森さんの作品を見て、カルチャーショックを受けちゃって、今は大人向けの絵本を描き始めたんです!」……と、安西さんがキラキラした目で言った。


「見た〜い! 見たいです〜! 今日は、お持ちですか?」と聴くと……


「写真で良ければ……。 ……まだ下描きなんで恥ずかしいけど……」と言いながら、スマホで撮影した製作途中の絵を見せてくれた。


 こ、これまた凄い!


『マッチ売りの少女』がモチーフだとは思うが……本人がおっしゃる通り、ある意味、目のやり場に困る位に美しく、とてもじゃ無いけど、お子様には見せられないわ〜!


 しかも……これが下描き!? 夥しい数の雪の結晶が、一つ一つ丁寧に、立体的にえがき込まれている!


 ……以前、鈴森さんが『……とても繊細な指の動きに、僕は見惚れてしまい……』とメールに書いていたが、実際、この絵を描いている所を見たら、誰もが見惚れるだろう。


 ……気配を感じて、ふと振り返ると、鈴森さんが幸せそうな笑顔を浮べて立っていた。


「……お弟子さんも凄いですね〜」……とふざけた調子で言ったら、あの鈴森さんが私と目を合わせて、何度も頷いてくれた。


 ……その眼差しは、自信に満ち溢れている!


 へぇ〜! 鈴森さん、ちょっと成長してるじゃん!

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