第6話 脱兎

 白衣ケーシーに着替えて検査室に向かうと、誰かが廊下に這いつくばっている。


 な! なに?


 ……それは、、鈴村さんだった。


 うわっ! ……間違い無い! あの手紙を探してるんだ~



 ……鈴村さんが、私の気配に気付いて急に頭を上げたので『ガツンッ』……と、廊下のベンチに頭をぶつけてしまった!


「きゃあ~~! だ、大丈夫ですか?」……私が慌てて駆け寄ると……


「だ、だ、だ、だ、大丈夫っす! ご、ごめんなさい!」……と、頭を押さえながら理学療法室に入って行った。


 ホントに大丈夫かなあ? 後でCTかMRI撮像した方が良いかも……。




 ……こりゃ、早く返してあげないと、けが人が出る! ……いや、さっきの衝撃で、もう既にけが人になってる恐れもある。 何とかしなきゃ……。




 ……昼休みに、鈴村さんが頭をぶつけた事を伝えようと、レントゲン室に行った。


 はっしーに伝えると……


「え! まゆの時もぶつけたの!?」


 え! はっしーの時もぶつけたの!?


「何かを必死に探してたんだよね。 ……聴こうと思ったら走って理学療法室に逃げ込んじゃったのよ……」


『逃げ込んじゃった』 ……上手うまい表現だ。


「……大事な物なら、皆に言って協力して貰えば良いのにね」


「……いやあ、それは無理でしょ」……と、口が滑りそうになって、慌てて止めた。


「ん? まゆ、鈴村さんから何か聴いたの?」


 私は「い、いや、私の時も逃げちゃったから聴いてないよ!」……と、しらを切った。


 はっしーは鋭いし、私は、すぐ顔に出るから危ない危ない! ボロが出る前に撤収しよう。


 ……後で、レントゲンの山本技師長から、さりげなく検査を勧めて貰うようにお願いして、検査室に戻った。



 ……ちなみに鈴村さんは、その後CTを撮って、問題無いことが判明した。 あの勢いで2回もぶつけて無傷とは! ……やはり、昭和生まれは頑丈に出来ているようだ。

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