第6章 ラブレター

第1話 ドキドキ!

 臨床検査技師の仕事は、外来を含め、他の部署が終了してからが本番となる。

(拙作『臨床検査技師の『はるか』です!』第1章 第8話『聖母』をご参照下さい) ……その為、日勤の中で帰りが遅くなるのは日常だ。


 ……その日も仕事を終えると、既に暗くなっていた。


 当然、職員通用口も暗く、常夜灯の薄明かりを頼りに、靴箱からローファーを取り出し、下に置いた。


 ……?


 足元に、封筒が落ちていた。


 ……名前も何も書かれていない、無地の封筒だ。 ……中に、何か入っている。


 ……そのまま見なかった事にしておこうか? ……とも思ったが……封がされていない。


 せめて、誰のものかだけでも見て、その人の靴箱に入れておいてあげよう……と思い、中を覗き込むと、手紙のようだった。


 薄明かりの下で開いて読んでみると……


「先日は、ありがとうございました。 貴女の事が忘れられず、こうして手紙をしたためました。 最後までお読み頂ければ嬉しいです」


 ……え……これって……ラブ……レター……と呼ばれるもの……!?


 ……心臓が高まり、呼吸がはやくなった!

 

 異常に……喉が渇く! 私の体内をアドレナリンが駆け巡っているんだ!


 ……1度検査室に戻って落ち着こう……と思い、下に置いたローファーを再び靴箱に戻し、その手紙を手に、通用口から検査室に逆戻りした。


 ……初めて手にする『ラブレター♥』!


 ……中学、高校と女子校に通い、成り行きから臨床検査技師の専門学校に入学してからは、レポートと試験に追われる日々で、『ラブレター』と言う物の存在を耳にした事はあったが、それが……なんて!


 ラブレターを検査室のデスクに置き、フリーザーからウーロン茶を取り出して喉の乾きを潤した。


 ……ここで深呼吸をして、ひと息ついた。


 …………


 ……ひと息ついたところで……私は重大な事に気が付いた……。



 この手紙……良〜く考えてみれば……


 私が貰ったラブレターでは無いじゃん!


 ……『ラブレター』と称する文書が実在していた事に驚愕して、思考がとっ散らかってしまったようだ! テヘペロ〜 ←古


 ……って、ふざけた事を言ってる場合じゃ無い……これってまずいよね? 誰かのラブレターを勝手に見ちゃったよ! ……と、今度は罪悪感にさいなまれる事になった。


 ……いやいや、もう一度落ち着こう。


 誰の手紙かはだ判らないが、拾ったのが意地悪な人なら、もしかしたら職員食堂に貼り出されて、からかわれたかも知れないよ! 


 

 ……そもそも論として、こんな大事なお手紙を落とす人が不注意過ぎ!


 これを書いたうっかりさんは一体誰!?


 ……と、自己弁護を展開しつつ、取り敢えず誰の手紙かを調べよう……と、再び手紙に目を通した。 ←野次馬根性

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