第15話『アジャンターム』
本番は、あっという間に終わってしまった。
……往々にしてイベント事は、準備したり練習したりしている間がワクワクして楽しく、当日は矢のように過ぎてしまう。
……区民劇の会場は、立ち見になる程、大勢の
……ビデオ係の兄貴は、それを予測して早目に良い席を確保したそうで『俺の的確な判断のお陰で良い映像が記録出来たんだからな!』……と、暫くの間、恩着せがましく言われる羽目になった。(とは言え、実はプロのカメラマンが、ちゃんと数台のカメラで撮影し、カット割り編集までしてあるDVDを買ったので、素人の単調なビデオは繰り返し観られる事は無かったのだが……)
……こんなに観客が増えてしまったのには理由があった。
看護師さんや事務の方々……深田先輩や
ロビーには病院名の入ったスタンド花が並び、楽屋にもケータリング(厨房の皆様、感謝申し上げます!)やら高級な日本酒やらが病院から届けられたので、梅郷先生が恐縮していた。
そんな中、私は緊張よりも『カモミーユ姫』の『偉業』を伝える……という使命感から、いつにも増して『カモミーユ』と一体化していた。
劇のクライマックス、坂井 浩一さん演じるヒール『ウェルダン公爵』とカモミーユ姫との最終決戦の時だった。
坂井さんが、
団員全員が息を飲み、舞台の上が凍りついた!
『ガーベラー軍曹』こと
『
その時、会場に鳴り響いた大きな拍手……そして、観客の皆さんが『がんばれ! カモミーユ!』……と応援して下さった声は、今でも私の耳にはっきりと残っている。 ……『がんばれ!
区民劇『カミツレのブーケ』は、5回のアンコールの
全てが終わり、幕が下りて、私と『アネモーニお母様』は、抱き合って大声で泣いた。
劇団の皆さん、梅郷先生ご夫妻も拍手しながら大粒の涙を流してくれた。
……
……その後の打ち上げは
実は、私の送別会も行われる筈だったのだが……何故か打ち上げにも参加した院長の『俺が許す』の一言で、私の続投が決定してしまった! 院長直々の命令じゃ逆らえないや! てへっ♡
要さんも、本気で喜んでくれたし……まあ、良いか……。
*****
……それから数年……
現実は厳しいらしく、要さんは
私は、やっと熱病みたいな恋から抜け出せたので、今度は純粋に演技を楽しもうと思っている。
……次の演目は、梅郷先生入魂の作品『カミツレのブーケ』の続編……カモミーユ女王の孫にあたる、やんちゃな姫『アジャンターム』が、祖母の遺志を継いで人々を護るストーリー『ライトグリーンの朝露』!
アジャンタームは、不肖、
詳しいストーリーは……
……皆様のご想像にお任せ致します!
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