第6話 エンパス

 ……実は私は、人の気持ちが判りすぎる傾向がある。 ……『エンパス』……と呼ばれる気質らしい。


 今迄……私は自分の、この気質が好きになれなかった。 むしろ辛いだけで何の得にもならない生き方……。 正直、歌謡曲を聴くのもつらい程だった。 失恋どころか、本当の『恋』さえした事も無いのに、失恋や悲しい恋の歌を聴くだけで、胸が苦しくなるんだ。


 ところがところが!


 今回、私は劇団で『カモミーユ姫』という役を戴いて、初めて自分の気質に救われた気がした……。


 台詞せりふさえ覚えれば、自分が『カモミーユ』と一体化する事が出来て、彼女の人生を自然に演じる事が出来たのだ!




 昔々……北欧の『カウニス王国』でクーデターが起き、激化するいくさの中、肉親と敵との狭間はざまに立ち、国の民を護るために、命を懸けて戦った一人の姫と忠実な近衛兵数名の物語……という、壮大なお話だ。


 目の前で、裏切り者の公爵に母親を殺されても、歯を食い縛って耐える姿や、大好きだった父王に刃を向けて「裏切り者」と呼ばれても勇敢に立ち向かう姿……そして、心の中では愛し合っていたが、お互いにその気持ちを言い出せないままの別れ……。


 どのシーンも、姫と気持ちを合わせると、難無く演じられた!


 一つ困ったのは……


 私……


 かなめさんが、妙に気になっちゃうんだけど……


 これって…………


 ……こ、恋!?

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