第4章『スポットライト』

第1話 見学

 その日……私は区民劇団『劇団あみーご』の見学に来ていた。


 十数人の団員のかたが、台本を片手にお稽古をしている。 ……普段はあまりギャラリーが居ないらしく、今日は特に皆さん張り切っている……と、主催者で演出家でもある『梅田先生』がおっしゃった。


 さて、何故なぜ私が劇団の見学に来ているのか……。 当然、女優さんに転職する訳ではない。


 ……前のエピソードにも書いたが、臨床検査技師が検査結果を患者さんに言う事は、法律で禁止されている。 


 結果に問題が無い時は良いのだが、異常のある患者さんの場合、私はぐ顔に出てしまうので、バレてしまう危険がある!


 その為、ここは一番! 演技力を身に付けて、私の表情から必死に結果を読み取ろうとしている患者さんの前で『ポーカーフェイス』な『ガラスの仮面』を被ろう!……と一念発起した訳だ。


 更に更に、それに加えて……実は私は、いまだに『漫画家』になる夢を諦めてはいない。


 『漫画を描く』と言うことはすなわち『キャラクターに演技をさせる』のと同じ事なので、演技の勉強は、いつか役に立つのでは……との考えもあったんだ。


 ……お稽古はあちこち飛び飛びだし、途中から参加した事もあり、ストーリーは良く判らないが、皆さん活き活きとしていて、とても楽しそうだった。


 ……仕事帰りに本屋さんで漫画を探すくらいしか楽しみのない私の目には、とても羨ましく映った。


 そんなこんなで、あっという間に、終了の時間になってしまった。


「遥……さん、如何いかがでした? もし良ければ『仮入団』してみませんか?」……と、梅田先生が仰った。


「あ、あの……私、学芸会でも劇なんてやった事無いのですけど………大丈夫ですか?」……と、恐る恐る聴いてみた。


 すると、団員でもある梅郷先生の奥さんが「うちの団員なんて、みーんなそうよ! 学生時代に日陰にたから、私たちの劇団に『輝き』を求めて集まって来た人ばかりよ〜!」……と、お腹からの素晴らしい発声で言った。


 その言葉を聞いていた団員のかたが「なんだよ~! それじゃまるで、俺たち『』みたいじゃん」と言いながら壁に張り付いたので、その姿を見て、みんなが笑った。 私も面白くて、予想以上に、お腹からの素晴らしい発声で笑ってしまった。


 梅田先生が皆さんを集め……


「今日、見学に来てくれた『遥 真優まゆ』さんだ。 入団してくれるそうだぞ!」……と、奥様の倍くらいの大きな声で紹介してくれた。


『パチパチ』『ひゅ~ひゅ~』……と、盛大に歓迎されてしまい、ほっぺが熱くなるのを感じた。 ……そして『まだ、はっきり決めた訳では無いのですが……』……と、言えなくなってしまった。


「よ、よ、宜しくお願い致します」……と頭を下げると、皆さんの祝福の拍手が、より大きくなった。


 そして! 更に驚くべき言葉が、梅田先生から発せられた!


「遥さんには、今回の劇のヒロイン『カモミーユ姫』をって貰う事にした!」


えええええええええええええええええ~~~~~~~~~~~!

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