第7話 傍胸骨左縁長軸断層像

 ……など啖呵たんかを切って検査室を後にしたものの、緊張で身震いしている。


 ……エコー室で検査着に着替えて頂き、壁を向いて横になってもらう。 私は、今村さんの背中に横腹を付けるような形でベットの横に腰掛けた。 心エコーの基本姿勢だ。(注・検者によっては、逆向きにする場合もある。)……頭の中で、心臓ヘルツの構造を思い浮かべながら、患者今村さんにおおかぶさるような形で、心エコー専用の小振こぶりな探触子プローブを肋間に当てる。 ……が! 心臓が……視えない……!


 まさか、この人……心臓が無い??


 ……んなバカな。


 落ち着け、私……落ち着け……。


「今村さん……息を大きく吸って……はい! ……そこで息を大きく吐いて下さ〜い」


 ……私の真後まうしろから、元気な声がした! 深田先輩だ!


 息を吐いて貰うと同時に、拍動する臓器が画面に現れた。


 おー! 心臓だあ!


「……今村さんはスタイル良いから、心エコー楽だよ」


 えっ……こんな出しにくいのに!?


「心臓は体内で一番激しく動く臓器だからな。 慣れないとムズいよね」……と言いながら、探触子を持つ私の手に自分の手を重ね、少し強目に、抉るような動きをすると……


 ま、まさしく、教科書通りの『傍胸骨左縁長軸断層像』と言う画像が、鮮明に表れた!


 か、感動〜〜(涙)


「ほれ、かんどーしてないで、ドプラーをオンにして!」


「は! はい!」


 超音波装置には、数種類の画像を得られるモードがある。


 テレビ等で良く観るのは「Bモード」と言う白黒の画面。 それと、今観察している『カラードプラー』だ。


 『こちらに向かって来る流れが赤、離れる流れが青』で表される……と言うが、何が何やら……。


 とは言え、目が慣れてくると、左心室→僧帽弁→左心房の間に、明らかに『黄色』が見えており、僧帽弁が完全に閉じられていないのが判る。


「MRね。 ……ModerateからSevere……prolapseがある……」


 深田先輩の口からスラスラ述べられる専門用語と私の手を動かす力強さに戸惑いながらも、私は本気で憧れた。


 私も、いつか先輩のように……なりたい!

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