第6話 今村さん

 五木いつき技師長ぎしちょーが、受付の今村さんを検査室に連れて来た。


はるかさん、今村さんが、エコー撮って欲しいんだって」


 ドキッ!


 今村さんは、私がこの病院の面接時、初めて声をかけたかただ。


 ……私は何を隠そう、身長148cm、体重○○kg(←ここは隠そう)の所謂いわゆるチンチクリン。 お胸は約C(……見栄)のお子ちゃま体型なのだが、今村さんは、身長169cm、体重○○kg (個人情報保護)、お胸に至っては、恐らくD(−)。 スタイル抜群、笑顔が素敵なお姉様♡ 私が男子なら、ぜぇったい大好きになっちゃうこと間違い無しの、憧れの女性である。


 その今村さんのエコーを撮らせて戴くなど、なんて烏滸おこがましい……


 ……そんな事を考えていると、技師長が……「あんちゃん(今村さんの名前)、最近、心臓に違和感があるんだって。 診てあげてくれない?」


 し! 心エコぉ~!?


「し、し、心エコーは、まだ無理! 無理です!」


 私は、必死に固辞した。


 以前も書いたが、エコー検査は他の検査と違い、手技や経験が大きく影響する。


 更に更に、心臓はご丁寧に肺に挟まれ、肋骨に包囲されているので、エコーウインドウ……つまり、臓器を観察出来る『窓』が、極端に狭くて少ないのだ。 ……心臓を観察する為には、呼吸して貰って『横隔膜』を上下させたり、身体の向きを色々変えたりして、心臓の位置を移動させる必要がある。


 加えて、肋間(肋骨と肋骨の間)に探触子プローブを『グリグリ』と押し付けて、無理やり覗き込んだりする必要もある。 それでも、エコーに長けた技師ですら『観察不良』との結果を提出する事があるのだ。


「……そうか……遥がやらないなら……俺がやるしかない……か……」


 ……ふと、深田先輩に目をやると……寝てる……。


 私は、技師長のその一言で奮起した。


 今村さんを、技師長の毒牙から護れるのは……私だけ!


逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだあ!


「私がやります! 私は、臨床検査技師! はるかマユです!」

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