第5話 所見

 放射線レントゲン室に行くと、橋本さんが文字通り首を長くして、待っていてくれた。


「私、エコー初めてやらせて頂くので、時間がかかったらすみません」……と正直に言うと、放射線レントゲン室技師長の山本さんが「今日の午後は多分たぶん暇だから良いよ〜……必要なら呼びに行くから」……と快く橋本さんを貸してくれた。


 超音波検査エコー室で、まず橋本さんの過去画像を確認した。


 以前の画像では、ガンゲリオン……じゃ無かったガングリオンは、直径8mmほど……表面から見えるのは4〜5mmか? それを見ただけでも、ガングリオンが大きくなっているだろう……という予想が付いた。


「痺れとかあります?」と聴くと「押すと響くのよね…」と言う。


 ……ゼリーを塗って観てみると、教科書通り『低エコー、後方エコー増強』の所見が観え、腫瘤の中は石灰化や血流は無い。 更に『脂肪腫』なら、他の脂肪組織と同色に観えるが、これは完全に『低エコー黒い』なので、『ガングリオン』に間違い無い。


 大きさは前回の約2倍になっている。 放射線レントゲン技師も、手を使う仕事なので、ガングリオンが大きくなってしまったのだろう。


 悪性では無いが、大きくなっているのは問題だ。


「整形とかの診察って受けてます?」


「……んにゃ……受けてない。 ……そんなに悪いの?」橋本さんが不安気に聴いてきた。


「良性腫瘤なので心配は全く無いんですが、前の倍くらいに大きくなってるみたいです。……もうすぐ深田先輩が来てくれるから、もう一度観てもらいますが、痺れがあるなら、このまま放置するより、一度、診察して貰った方が良いと思いますよ……」


 本来、患者様にこのように結果を言ってはいけないのだが、今回は診察を受けてもらいたくて、敢えて伝えた。


 ……ちょうど深田先輩も到着し、比較画像を見てもらってOKが出た。


 この後、橋本さんは整形外科を受診し、ガングリオンを注射器で吸引し、痺れも治まったようだ。


 橋本さんは「お礼に……」と、近くのファミレスで晩ごはんをおごってくれた。 その時に、色々と話が弾んで、私たちは『はっしー』『まゆ』……と呼び合う仲になったのだった。



 ……さて、今回はめでたしめでたし……だったのだが……この数日後、別の方でエコーの練習をさせて頂いた時に、少々厄介な問題が発生した……。

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