第6話 初仕事

「お邪魔〜っ」……と、看護師さんが伝票とプレパラートを持って来た。 


「『白癬菌はくせんきん』……実習で見た?」と深田先輩が聴いてきた。


 ……『白癬菌』……やったっけ?


「すみません……覚えが無い……です……。」


「皮膚科からの検査で一番多い検査だから、覚えておいてね。」……と深田先輩は、ピンセットでカバーグラスを持ち上げ『KOH水酸化カリウム』と書かれた試薬を、プレパラートに乗っている『粉』のような皮膚片に滴下し、そこに再び、カバーグラスをかけた。


「『KOH水酸化カリウム』を垂らす理由は?」


「……すみません……解りません……。」とらメモの準備をする。


 深田先輩は苦笑いしながら「いや、メモする程じゃ無いよ。 『皮膚』だけを溶かして、白癬菌を見付ける為……ね」


「わかりました」


「ほい。 じゃあ、ちょっとてみて」……と言って、席を変わってくれた。


 ……接眼レンズを覗くと……!


 明らかに透明な毛糸のようなものが絡まりあっている!


 「これはすぐに判るわよね!」……と深田先輩が伝票の『白癬菌』の欄に『(+)』と書いて、3枚綴り『検査者』の所に全てに印鑑を押し……


「一番上は会計伝票……2枚目が報告書……3枚目がうちの控え……ね」


 ……と手早く剥がしていく。


「皮膚科は先生が電子カルテ電カル入力するから、そのまま外来に報告書を持って行くの。 皮膚科の場所……判る?」


「フロアガイドを見れば……」


「おし、じゃあ、これ持ってって〜」……と、2枚目の伝票を渡された。


「はい!……では、行ってきます!」


 ……『白癬菌』……つまり『水虫』の原因菌だ。


 私の記念すべき初仕事は、『水虫(+)』の報告書の提出だった……。


 ……生涯忘れないだろうけど、誰にも言いたくは……無いなぁ……。

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