第2話 楽器

―運命的な出会いを果たしてから1週間後―


「達也まだ入部届出てないの?あんなにやる気だったのに...」

久司が呆れた様子でこっちを見ながら呟いた。

「ちょっとね...」

あの子のこと考えるだけで、ドキドキして緊張しちゃうなんて言えないよ...そう思いながら僕は答えた。

「どーせ緊張して入部届出せないとかそんな感じだろ?」

「なんでわかった!!」

「だって達也わかりやすいじゃん、すぐ顔に出る。」

久司にはお見通しらしい。

「いやーね?そもそも楽器やった事ないし、下手くそだと嫌われないかなって」

僕は思っていることを素直に話した。

「達也は歌えばいいんじゃない?」

今まで演奏することしか頭に無かった僕は思わず苦笑いしまった。

「ははは...、楽器できた方がかっこいいと思ってね。」

「そっか、ならギターボーカルなんかいいんじゃないか?」

髪をかきあげながらイケメンが呟いた

「そうする!今から入部届出しに行くよ!」

僕は久司の相槌を横目に軽音楽部の部室へと走り出していた。



「うーん、また1人辞めちゃったよ」

小柄だが筋肉質な風貌な男が言った。

この男の名は大島悟(おおじまさとる)といい、名前の割に小さいとよく弄られているらしい。

「やっぱり去年の事件が原因だろうな、今年の新入生は1人もいないし、噂が広まってるんだろう」

そう言ったのは川上怜治(かわかみれいじ)である。長身だが痩せていて病気かと思われることもあるらしい。

「暴力事件があったと聞いて入る物好きはいないぴょん」

この変な語尾の言い方をするのは君島直子(きみじまなおこ)といい、眼鏡を外せば美少女らしいが眼鏡女子をステータスにしており、コンタクトレンズにするつもりはないらしい。

「彩乃もあの事件の後、元気ないしな....」

筋肉とは裏腹にボソッと小さい声で言った。

「3バンドあったのに今や俺らだけ...」

長身の男がそう後に続いた。

「そろそろ廃部も有り得るぴょん」

悲しそうな顔で眼鏡っ娘も続いた。

「あとギターがいればなぁ(ぴょん)」

3人同時続いた。

すると、ドアをノックする音が部室に響いた。


「失礼しまーす。入部希望です!」

「木下達也と申します!ギターボーカル希望です!未経験の初心者ですがよろしくお願いします!!」

固くなりつつもハキハキとした口調で僕は言った。

「…」

しーんとしている。僕はなにか間違っただろうか?逃げ出したくなってきた。

「よく来てくれた達也くん、入部歓迎は大歓迎だよ!」

長身の男が嬉しそうに言った。

「ちょうどギターが辞めちゃって困ってたとこぴょん」

眼鏡を上げ直しながら上級生であろう女が答えた。

「ギタボ志望だし、とりあえずギターってことでよろしくね!」

ひと目でドラム担当と分かるような筋肉質な男がそう言った。


「精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」

僕は深々と頭を下げた。

「ドラム担当の大島だよ、よろしくね!」

「ベース担当の川上だ、よろしく!」

「キーボード担当の直子だぴょん!よろしくぴょん」


その後、好きなアーティストや音楽ジャンルなどを話してその日は解散となった。


「あの子今日いなかったな...」

「明日は来るのかな...」

「今日はたまたまだよなきっと...」

会えなかったからか、不安ばかりが浮かんでくる。


明日はきっと会えるはず、そう思い眠りについた。

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