番外編 その1 冴木桜のその後

 振られてしばらくは辛かった。

 正直、顔も見たくなくて、出来れば会わない方法を考えていた。

 卒業式は在校生は生徒会長以外、出席出来ない方針に。

 見なくてすむ、あの2人がいる所を。

 春休みに入り、距離を置ける口実が自然と出来て安心している。

 そんなある日。

 ふらりと1人で出掛けた。

 意味もなく目的もなく、バスに揺られて。

 辿り着いた場所は、知らない町。

 帰りの時間を確認してから歩き始めた。


 まだ肌寒いとはいえ、ほんのりと太陽から暖かさが降り注いでいる。

 もう春がすぐそこまで来ていた。

 自分の誕生日ももうすぐだ。

 はぁ・・・こんな所まで来て、何しに外に出たんだろう。


 というか、ここは、どこ?


 辺りを見渡すと、田んぼだけが広がっている。

 先を見ると、川が流れている。

 橋だ、よしあの場所まで行こう。

 そう決めて橋の所まで歩いた。



「綺麗だなぁ」

 太陽に照らされた川はキラキラ輝いている。

 癒されるなぁ・・・。

 キョロキョロすると、視界に何か入ってきた。

 ん?誰だ、ここの人かな?

 橋の端に男の人が私と同じく川を見ていた。

 声をかけてみよう。

「あのー!」

「!?」

 大きな声で呼んだからなのか、誰もいないのに声が聞こえて驚いたのか。

 彼は私の方を見た。

 私もじっと見た。

 あれ?なんだか、距離が近くなってきているような・・・。

 どうやら走って来たようだ。

 息切れしている、50メートルもないのに。

 たった数メートルないのに。

「大丈夫ですか?」

 心配して聞いてみる。

「だ、大丈夫・・・です・・・」

 眼鏡をかけたその人。

 身長は高い、こんなに高い人に会うのは初めてかもしれない。

「あなたは、どこから?」

「ごめんなさい、ここがどこか分からないのですが、バスで1時間かけて辿り着きました」

「なるほど、そうなんですか」

 声はわりと低くくて、でも心地好く感じた。

「あの、良ければお名前は?」

冴木さえきさくらです」

「僕は平幡ひらはた結唯ゆいって言います」

 平幡、結唯、さん。

「おいくつですか?」

「来月18歳になります」

「そうか、高校生なんだね。僕は大学2年になる」

 2つ上なんだ。

「僕は今帰省中でね」

「はい」

「将来どうするのか、模索中でさ」

 いろいろ、あるよね。

「僕の両親、学校の先生でね、教師の道も悪くはないんだけど、自分とても話下手でさ」

 親の背中を見て育ったとはいえってやつですね。

「じっくり考えているんですね」

「うん」

 私は違う事で考えているから、なんとなく分かる。

「冴木さんはどうしてここまで来たの?」

「振られちゃって、まだ引きずってまして」

 恥ずかしいな、情けない。

「ツラいね・・・」

 平幡さんは優しい人だな。

「僕はまだ本気の恋をしたことないから羨ましいよ」

「えっ?」

「本気の恋は、成長の糧になる、らしいよ?」

 それはどういう意味だろう?

「新しい人、きっと見つかるよ」

 笑顔で平幡さんは断言する。

「説得力ないから、イラッとしたらごめんね」

「いえ、大丈夫です」

「ありがとう」

 すると伸びをした平幡さんは、おろしていたリュックを 背負しょう。

「冴木さんと話せて良かった、ありがとう。次の所に僕は行く」

「こちらこそ、ありがとうございました」

「またどこかで」

 微笑んだ平幡さんは私に背を向けて次の目的地へと向かった。


 心がずっともやもやしていたけど、失恋の傷が少しだけ治った気がした。

 一歩、踏み出せそう。


 私は私で、またバスに乗って帰宅する事にした。

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