番外編 その1 冴木桜のその後
振られてしばらくは辛かった。
正直、顔も見たくなくて、出来れば会わない方法を考えていた。
卒業式は在校生は生徒会長以外、出席出来ない方針に。
見なくてすむ、あの2人がいる所を。
春休みに入り、距離を置ける口実が自然と出来て安心している。
そんなある日。
ふらりと1人で出掛けた。
意味もなく目的もなく、バスに揺られて。
辿り着いた場所は、知らない町。
帰りの時間を確認してから歩き始めた。
まだ肌寒いとはいえ、ほんのりと太陽から暖かさが降り注いでいる。
もう春がすぐそこまで来ていた。
自分の誕生日ももうすぐだ。
はぁ・・・こんな所まで来て、何しに外に出たんだろう。
というか、ここは、どこ?
辺りを見渡すと、田んぼだけが広がっている。
先を見ると、川が流れている。
橋だ、よしあの場所まで行こう。
そう決めて橋の所まで歩いた。
※
「綺麗だなぁ」
太陽に照らされた川はキラキラ輝いている。
癒されるなぁ・・・。
キョロキョロすると、視界に何か入ってきた。
ん?誰だ、ここの人かな?
橋の端に男の人が私と同じく川を見ていた。
声をかけてみよう。
「あのー!」
「!?」
大きな声で呼んだからなのか、誰もいないのに声が聞こえて驚いたのか。
彼は私の方を見た。
私もじっと見た。
あれ?なんだか、距離が近くなってきているような・・・。
どうやら走って来たようだ。
息切れしている、50メートルもないのに。
たった数メートルないのに。
「大丈夫ですか?」
心配して聞いてみる。
「だ、大丈夫・・・です・・・」
眼鏡をかけたその人。
身長は高い、こんなに高い人に会うのは初めてかもしれない。
「あなたは、どこから?」
「ごめんなさい、ここがどこか分からないのですが、バスで1時間かけて辿り着きました」
「なるほど、そうなんですか」
声はわりと低くくて、でも心地好く感じた。
「あの、良ければお名前は?」
「
「僕は
平幡、結唯、さん。
「おいくつですか?」
「来月18歳になります」
「そうか、高校生なんだね。僕は大学2年になる」
2つ上なんだ。
「僕は今帰省中でね」
「はい」
「将来どうするのか、模索中でさ」
いろいろ、あるよね。
「僕の両親、学校の先生でね、教師の道も悪くはないんだけど、自分とても話下手でさ」
親の背中を見て育ったとはいえってやつですね。
「じっくり考えているんですね」
「うん」
私は違う事で考えているから、なんとなく分かる。
「冴木さんはどうしてここまで来たの?」
「振られちゃって、まだ引きずってまして」
恥ずかしいな、情けない。
「ツラいね・・・」
平幡さんは優しい人だな。
「僕はまだ本気の恋をしたことないから羨ましいよ」
「えっ?」
「本気の恋は、成長の糧になる、らしいよ?」
それはどういう意味だろう?
「新しい人、きっと見つかるよ」
笑顔で平幡さんは断言する。
「説得力ないから、イラッとしたらごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「ありがとう」
すると伸びをした平幡さんは、おろしていたリュックを
「冴木さんと話せて良かった、ありがとう。次の所に僕は行く」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「またどこかで」
微笑んだ平幡さんは私に背を向けて次の目的地へと向かった。
心がずっともやもやしていたけど、失恋の傷が少しだけ治った気がした。
一歩、踏み出せそう。
私は私で、またバスに乗って帰宅する事にした。
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